【短編版】カイルとシャルロットの冒険

神谷モロ

第1話 冒険者ラングレン兄妹

 草原の国、カルルク帝国。


 カルルク帝国は内陸にある巨大な帝国である。

 南の隣国には独立都市国家である海洋都市グプタがあり海を挟んでエフタル共和国がある。


 グプタは海を挟んで西グプタと東グプタがあり、両岸の都市部と、それを挟んだ広大な海が領土となっている。


 カルルク帝国とエフタル共和国は一つの大陸にあるが陸路では行き来が出来ない。


 なぜなら陸路である両国の北側には恐るべき魔獣の住む未開の地、バシュミル大森林があるからである。


 よって両国の交流は必ず海路を使わざるを得ず。

 そのため海洋都市グプタは貿易で膨大な利益を得ている。

 グプタの経済は二つの国と同等かそれ以上であるといわれている。

 それゆえに都市国家ながらも、どちらの陣営に付かずに独立を維持できている大きな理由である。


 そういった地理的な事情によって、カルルク帝国の首都ベラサグンは中央よりやや北側にあり、北方の魔獣の住処であるバシュミル大森林を警戒しつつ。

 軍を統括する貴族たちは比較的北側に居を構える。

 一方で南方は経済に長けた商人たちが比較的自由に経済活動をしている。


 俺達は首都ベラサグンからさらに北、バシュミル大森林と接触する重要拠点。

 街自体が要塞と化している迷宮都市タラスで冒険者として活動している。


 迷宮都市タラスの城壁を出てすぐ、バシュミル大森林の入り口である平原に、数匹の魔獣が現れた。今回の討伐任務だ。


「敵はマンイーターの集団だ! シャルロット、いつも通りいくぞ!」


「オーケー、うしろは任せてちょうだい」


 マンイーター。

 ハムスターに似ているが魔獣である。

 外見こそ可愛い魔獣であるが、鋭い牙と爪を持ち、大きさが大人の人間よりやや大きいため、それなりに脅威の魔物である。


「ヘイスト!」


 俺は魔法を唱えると、身体が軽くなるのを感じた。

 ヘイストは俺が使える魔法の中でもっとも高位の魔法だ。身体能力の向上により接近戦の補助に向く中級魔法。


 これにより素早い斬撃を敵に喰らわすことができる。


 俺はノダチを鞘から抜き、切っ先を水平に構えると敵の集団に突っ込む。


 まずは一匹。


 俺は、敵の集団のなかで最も体躯のデカい一匹にノダチの一突きを浴びせる。


 マンイーターの分厚い胸筋と肋骨ごと心臓を貫く。

 ノダチを引き抜くと、敵は声を上げることなくその場に倒れた。

 敵はリーダー格である個体を失ったのか後は無秩序に暴れるのみだった。


 魔物は総じてそれなりに知能があるため、集団戦闘をする。

 そのため数が揃うと討伐の難易度は比例して上がる。

 だがリーダーを倒せばずっと簡単になる。


 後は個別に撃破するのみだ、ヘイストの効果が残っているあいだにもう一匹しとめたい。


 一瞬の出来事にうろたえていたもう一匹が、状況を理解すると、こちらに襲い掛かってくる。

 俺はそいつに対して正面に剣を構える。


 そして奴を袈裟切りにする。


 手ごたえはあるが、浅い! 分厚い毛皮のせいで刃が滑ってしまったのだろう。

 

 マンイーターの毛皮は防具として、防寒、防刃に優れた特性があり冒険者たちに重宝される。


 なるほどな。今ので致命傷にはならなかったか。


 マンイーターは両手を広げて、攻撃の構えを取る。


 だが、後衛の魔法使いであるシャルロットがとどめを刺す。

 氷の中級魔法、アイスジャベリン。奴の背中から心臓を貫き、胸から氷の槍の先端が覗いていた。

 

 よし、これで最後の一匹。


 ヘイストが切れてしまっているが、もう俺達の勝ちだ。

 俺は大振りのノダチの横なぎを最後の一匹にむかって放つ。


 奴は俺のノダチの横なぎを勢いよくジャンプしてかわすが。


「残念でした、『ヘルファイア』!」

 後に控えていたシャルロットが待ってましたとばかりに魔法を撃つ。

 その瞬間、燃え盛るマンイーターは地面に落ちると、悶えながら消し炭となった。


 中級魔法の中でも一瞬で生物を消し炭にするヘルファイアは、冒険者では使えるものは稀である。

 そもそも冒険者には魔法使いが少ない。

 魔法適正があるものは貴族に囲われその力は秘匿されるのが習わしだからだ。


 ゆえに、シャルロットが高位の魔法使いであるということは隠してある。

 ギリギリの線で、ヘルファイアが彼女の最大魔法であると公言している。

 だが、シャルロットが使える魔法は既に上級魔法の大半を網羅している。

 これが知られれば彼女は貴族の目に留まってしまうだろう。

 


 ヘルファイアをまともに喰らったマンイーターは瞬時に絶命し、焼け焦げた匂いが周りにただよう。


 マンイーターは瞬発力があるため、魔法使いにとっては案外苦戦しやすい魔物である。

 前衛によるサポート、もしくは範囲攻撃魔法がなければ思わぬ反撃に殺されるという事故は数年に一回はあるほどだ。


「やったか!」

「そうねやったわ!」


 最後の一匹を仕留めると、俺達はハイタッチをする。

 

 周りを見回すと、首をはねられたもの、焼け焦げたもの、体中に切り傷を付けて焼かれたもの、心臓を貫かれて絶命したもの様々な死体が転がっている。


「全部で5匹か、ここのところマンイーターばかりを狩ってるな」


 俺達は、迷宮都市タラスから少し離れた、バシュミル大森林の手前にある平原において、森から溢れてきた魔獣の討伐任務をしている。


 やつらは個体数が増えるとこうして人里にやってくることがあるのだ。


 生存競争にやぶれて逃げ延びた魔物は行き先を求めて人里にやってくる。


 いくら弱い魔物でも、大抵の平民にとっては脅威であり、

だから俺達のような冒険者の仕事として成立するのだ。


 それにしても、エフタル王国から逃げ延びてから、カルルク帝国に来てもう2年は経ったか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る