12 “マシラウ2号”車内紹介

 16:00、ナツと交代したハルは車内巡回に向かうことにした。


 今日の“マシラウ2号”は機関車ドーラ1両に貨物車4両、客車15両の20両編成だ。

 これらは“20系客貨車”という、タートル鉄道では最も一般的な寝台列車である。


 先頭には貨物車が4両繋がっている。そのうち3両は先日の“リサ・バード急行”と同じタイプの貨物車で、メタ・ラゲージと呼ばれるメタ空間に無限の貨物、基本的にはコンテナを搭載し運んでいる。

 それと違うのは、先頭の1号車だ。1号車の後ろ半分は同じメタ・ラゲージがあり、無限大に搭載できるが、搭載扉が小さいため小型コンテナを主に取り扱っている。

 そして、もう半分は補助動力装置だ。基本的にタートル鉄道の列車は機関車の永久ボイラーからエネルギーを送られている。機関車から切り離されている間は、床下などにある小型動力装置を使用している。

 だが、この“マシラウ2号”のシーチューブのように、無人地帯を長時間走行する列車では、万が一機関車が故障した時に、救援が来るまで相当時間かかることが想定される。その時に、大事に至らないようにこの補助動力装置が搭載されているのだ。

 そのため、普段の走行中は機関車からエネルギー供給されるため、電源は切れている。

 なお、永久ボイラーほど出力は強くないため、メタ空間を維持することはできないが、緊急時にメタ空間から脱出できるように、接続も可能である。

 貨物車の形式は1号車はCPN21形、2〜4号車はCN20形である。


 貨物車の後ろ、5〜8号車は二等座席車が4両連結されている。この二等座席車は“リサ・バード急行”とは異なり、長距離路線仕様の座席になっている

 まず、座席配列は進行方向左側が2列、右側が1列の横3列シートだ。

 特筆すべきは、シェル型シートと呼ばれる座席の周りを包み込むような構造で、まるでゆりかごのような座り心地と評判である。また後席を気にせず全開でリクライニングができ、前席の下部にフットレストがあり、ほぼベッドのような寝心地になる。

 その構造上、座席の回転はできないが、それでも横3列、縦12列(5号車のみ車掌室がある関係で10列)で定員36名の快適な空間になっている。

 人によってはベッドよりも寝れると感想をもつほど快適なシートは、乗車率が高く今日も9割方が埋まっていた。

 まだ、始発駅のアトムス中央駅を発車したばかりのため、大半の乗客は起きて仕事や読書をしているほか、座席備え付けのモニターで映画を見ている乗客もいた。ハルも、この席に乗客として乗ったことはなく、いつかこういう列車で旅をしたいと考えていた。

 二等座席車の形式は、5号車は車掌室付きのAS21形、6〜8号車はAS20形である。


 次の9号車はラウンジ車である。これは“リサ・バード急行”と同じ車両で、2階建て構造で、平屋部分にトイレとシャワールーム、2階にラウンジ、1階に車内コンビニがある。

 その後ろ10号車の食堂車も“リサ・バード急行”と同じ車両で、2階はテーブル席、1階は個室席の構造だ。“マシラウ2号”でも個室席は人気で、ほとんどの時間帯が予約で埋まっているそうだ。

 ラウンジ車はLND20形、食堂車はRND20形である。


 11号車は“マシラウ2号”ならではのメタ空間車だ。機関車の永久ボイラーからのエネルギーを活用し、クローズド・メタ空間を乗客向けに開放している。

 車内は前よりと後よりにメタ・エントランスの入り口があるだけで、それ以外はデッキ部にトイレと喫茶コーナーがある他は、何も無くガランとした空間になっている。これは、機関車の永久ボイラーに異常が発生し、緊急的にメタ空間から脱出するときに、混乱を防止するため、このような構造になっているのだ。

 入り口は二つあるが、内部では、どちらも隣あった扉に通じている。このメタ空間には、オープン・メタ空間のようなショッピングモールなどはないが、映画館やカラオケルーム、アミューズメントパークやゴルフ場、公園、温泉にいたるまであらゆる施設が用意されている。

 ただし、メタ・エントランスにのみクロイドが常駐するため、例えばゴルフ場のキャディなど補助スタッフが必要な場合でも、自分で対応する必要がある。

 利用料は、乗客なら無料で無制限に利用できるため、始発駅から終着駅までずっと滞在する乗客もいる。

 メタ空間車はMN20形である。


 12号車から15号車は二等寝台車である。これも“リサ・バード急行”と同じで2段ベッドのうち、シャッターで締め切れるキャビンタイプと、4人用で使えるコンパートメントタイプがある。“マシラウ2号”では、そのタイプを号車別にわけていて、12〜14号車がキャビンタイプ、15号車がコンパートメントタイプに統一されている。

 12〜14号車はBS20形、15号車は車掌室付きのBS21形である。


 15号車を巡回していると見覚えのある人物がいた。マドレーヌだ。先に巡回したナツが言っていたが、彼女を含む海底連邦政府のメンバー8人は、二等寝台車で向かうようだ。

「あら、ハルさん」

「マドレーヌさん、ここにいたんだ」

 マドレーヌは、海底連邦政府のメンバーに、ハルのことを紹介した。すると、一番奥に座っていた恰幅のいい老紳士が話しかけてきた。

「やあやあ、あなたがハルさんですな。アトムスではマドレーヌがお世話になりました」

 この老紳士は、ワルテール・ルブタン枢機卿で、このメンバーのリーダーだそうだ。

「いえいえ、そんなとんでもない。こちらの方こそマドレーヌさんにはお世話になりました」

「そうですか、それなら良かった」

 彼によると、今後より一層関係を強化していきたいマザー・タートルの関係者と、少しでも人脈を広めたいので、どのような関係であっても親密になることが理想のようだ。

「では、私は仕事がありますので、これで失礼します」

「ああ、これはお仕事中のところ、引き留めてしまいましたね」

「また後ほども参りますので、よろしくお願いいたします。それでは、車中でのひとときをごゆっくりお過ごしください」

 しばらく会話をしたのち、ハルは巡回を再開した。


 16、17号車は一等寝台車である。例によって“リサ・バード急行”と同様の車両で、1〜2人用個室が6室ある。

 一等寝台車はBF20形である。


 18号車は一等食堂車である。一等車の乗客専用の食堂車で、2階建てでは無く平屋の車両だ。

 この食堂車は、高級感と贅沢さを漂わせる内装が特徴的である。車内に入ると、そこには真っ白なテーブルクロスが敷かれたテーブルが並び、煌めくシャンデリアの光が華やかな雰囲気を作り出している。

 木目調の壁面には、エレガントな装飾が施されており、美しい花々や風景画が描かれた絵画が飾られている。そして、テーブルや1人がけのゆったりとしたソファは豪華な素材で作られ、細部にわたって繊細な彫刻が施されている。

 さらに、テーブルの上には、銀製のカトラリーや上品なガラス製の食器がセットされ、料理に合わせた選りすぐりのワインが用意されている。

 クロイドが一品ずつ運び入れてくる料理は、見た目も美しく、香りも高く、味わいは格別である。季節の素材を使った特別なメニューは、乗客たちにとって一生忘れられない食体験となることだろう。

 タートル鉄道は普通の食堂車も人気が高いが、この一等食堂車はとりわけ人気が高く、世界最高級のフルコースが楽しめるという口コミもある。

 一等食堂車の形式はRF20形である。


 最後尾の19号車は、一等展望車である。こちらも一等の乗客専用の設備である。

 この展望車は、その名の通り、雄大な景色を楽しむために特別に設けられた車両である。車両内は広々としており、360度どこを向いても素晴らしい景色が広がっている。

 なお、シーチューブ内のため外に比べて眺望は劣るが、それでも十分に楽しめるようになっている。

 車内に足を踏み入れると、そこは壮大なパノラマビューが広がる世界に迷い込んだかのような雰囲気が漂っていた。大きな窓が設けられており、美しい風景を間近で見ることができる。窓枠は美しい木材で飾られており、高級感あふれる装飾が施されている。

 快適なソファが置かれていて、乗客たちはゆったりとした空間で、食事やお茶を楽しみながら、景色を眺めることができる。展望車は揺れも少なく、乗客たちは安心して時間を過ごすことができる。

 そして、展望車には専任のクロイドが常駐するカクテルバーが併設されており、豪華なドリンクを楽しむことができる。上品な雰囲気の中、モヒートやマルガリータなどのカクテルを楽しみながら、素晴らしい景色を眺めることができる。

 最後尾はオープンデッキになっていて、これもシーチューブ内であるが、それ越しに海底の雄大な景色を眺めることができるようになっている。

 展望車の一角にはメタ空間車のメタ・エントランスに繋がっているドアがあり、一等車の乗客は少ない距離で移動が可能だ。

 一等展望車の形式はOF20形である。


 車内巡回を終えたハルは、一等展望車の車掌室から機関車ドーラに戻っていった。

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