10 アトムス中央駅での見送り、そして…。
11:30、発車30分前になり、改札が始まる。ホームに多くの乗客が降りてきた。また、乗客だけでなく、見送りのスタッフも大勢いた。そして、多くのボディガードに囲まれながら、マルタン大統領も降りてきた。
彼は乗客たちに声をかけながら前方に進み、そして機関車ドーラのところまでやってきた。
「みなさーん!ついにこの日が来てしまいました…。アトムスは楽しめましたか?」
「はい。とても楽しめましたよ」
アキが運転室の扉を開け、応えた。
「それは良かった。ちなみにマドレーヌの応対はいかがでしたか?」
「とても良かったです。彼女のおかげで、私たちは最高の時間を過ごすことができました」
「そうですか。私の優秀な部下ですからね。まあ、そんな彼女としばらくの間お別れしてしまうのは、寂しい限りなのですが…」
マルタン大統領が放った一言に、4人は驚きを隠せなかった。
「えっ、マドレーヌさんどこか行っちゃうの?」
ナツが思わず大統領相手に尋ねた。
「ええ、彼女はこれから半年間の出張に出かけるのです」
「出張、それはどちらに」
「それは本人の口からお伝えしましょう」
すると周りにいたスタッフの後ろから、マドレーヌが現れた。
「皆さん、えと、私事で恐縮なのですが、本日より半年間、マザー・タートル政府へ出張することになりました」
『ええっ!』
4人とも驚嘆の声を上げた。いつか再会したいと考えていたが、こんなに早く叶うとは思わなかったからだ。
「そんなー、そうなら早く言ってよ。もう驚いちゃったじゃない」
ナツは驚いたと言いながらも嬉しそうだった。それは他の3人も同様だった。
「ごめんなさい。元々、本日からマザー・タートルへ出張するチームがいることは事実だったのですが、私はそのメンバーに選ばれていませんでした。ですが今朝、急遽メンバーの枠が1つ開きまして、私がそれに志願しました。そして皆さんの列車で行かせて頂くことになりました」
「やったー!そういうことだったんだ。じゃあ今度は私たちの列車でゆっくり過ごして行ってね」
「ええ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「私がその枠で行こうとしたのですが、公務の都合でどうしても無理なんです」
大統領がマドレーヌを羨ましそうに見ていた。
「どうか彼女を、そして両国のこれからの発展のために、お気をつけてお帰りください」
大統領はそう言うと「では」と言いながら去っていった。マドレーヌも「私も打ち合わせがあるので失礼します」と言い、立ち去った。
「それにしても、驚いたね」
「ああいうサプライズなら大歓迎だけどな」
「またマドレーヌさんとカラオケしたい!」
「今度はマザー・タートルの見どころを紹介しましょ」
4人は口々に感想を言ったが、そのどれもが喜びに溢れていた。
11:59、発車1分前になった。
「信号進行」
車内信号が進行信号に変わった。ホームでは『プルルル…』と発車ベルが鳴り始めた。
『ピィィィ』とホームにいた駅長が笛を吹き、円形緑色の板を掲げた。閉扉の合図だ。
「合図よし、閉扉」
ナツが扉を閉める。その後、もう一度同じ合図が来た。今度のは発車合図だ。
「合図よし、信号進行、閉じめよし、時刻よし、発車」
12:00、『フォォォ』と汽笛を鳴らし、KUT-2列車、海底超特急“マシラウ2号”は定刻にアトムス中央駅を発車した。
アトムス中央駅を発車した列車は、しばらくの間高架線を走る。この高架線は市内を環状するように作られている。これは道路の環状交差点のような使われ方がされ、列車の進行方向を面倒な手間無く変えることができる。だから、アトムス中央駅に到着した列車の機関車はそのまま切り離すことができ、発車の際も連結すればいいだけなのだ。
環状線路を抜け、タートルトンネルのある街へと続く路線に入る。この路線は“ユージア本線”という名前で、明後日の深夜に到着するアルノヴィンゲオト駅まで続く、海底連邦を代表する路線だった。
12:35、最初の停車駅“ズールトン”に停車する。ここは首都アトムス郊外の都市で、多国人街があるなど、異国情緒のある街だった。ここからもそれなりの乗車があり、5分停車で発車した。
次の停車駅はペリーヌ駅、13:08に到着した。列車はここで約30分停車し、13:40に発車する。その理由は、この駅で貨物を搭載するからだ。
ペリーヌ駅周辺は“アトムス総合貨物ターミナル”と呼ばれる地区で、アトムスだけでなく、海底連邦全体の貨物が集まる場所となっている。近隣のシードーム都市からマザー・タートルまで送る貨物や、逆にマザー・タートルから各都市へ送られてきた貨物もここを経由する。
そのため、海底“超特急”と名乗りながら、往復ともこの駅でそれなりの時間停まるため、アトムス中央駅からペリーヌ駅間は地下鉄の方が早く着くことが多いのだ。
もっとも、この“マシラウ2号”に限らず、シーチューブを経由する列車は大半がこの駅で長時間停車するため、あまり気にする者はいなかった。
13:40、大量の貨物を載せた“マシラウ2号”は再び走り始めた。その数分後、シードーム間を結ぶトンネル、“シーチューブ”に突入した。
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