【Web版】推しの敵になったので
土岐丘しゅろ
第一章 墜翼のシンビオーシス
序幕 天使/オモテ
景色が背後へと吸い込まれていく。
そう錯覚するほどの速さで駆ける。
『ポイントFに出没した【
イヤーカフ型通信機から気勢ある声が響いた。
地を蹴る足が一層速まる。
歩道から上がる人々の歓声さえ置き去りにして。
走行する車体の間を縫うように追い越していく。
『対象に動きはありません! ですが現場への急行をお願いします!』
通信司令室の声は
敵の出現地が哨戒ルートから最も外れた場所だからだろう。
『それが難しい場合は他支部から増援を──』
「その必要はありません」
イヤーカフに手を当て、司令部の通信に割り込む。
『…………!』
いつしか目の前に近づくスクランブル交差点。
信号機の色は、赤。
しかし、速度は落とさない。
停止線の直前でアスファルトを蹴り、
「──既に、向かっています!」
車両が行き交う交差点の上で、宙を舞う。
『
その最中。
周囲の景色が、ゆっくりと流れ。
───見えた。
遥か前方。
道の真ん中で待ち構えるあの姿を
「対象発見。接敵まで──およそ十秒!」
着地と同時に再び駆け出す。
『っ! はや──っ』
「通信、一旦切れます」
『っ、了解。ご武運を!』
みるみるうちに近づく敵影。
常人の目には追えないほどのスピードを以って、
「はああっ!!」
挨拶代わりと言わんばかりのその一撃は、
「──来たね」
音もなく、相手の掌に受け止められる。
けれど、そんなことは分かりきっていた。
彼岸花の意匠が施された黒いローブをまとう眼前の敵の名は、〈
悪の組織【
対するは、治安維持組織【
彼女はぐいっと顔を寄せ、宿敵の瞳を真っ向から睨みつけた。
「今日こそあなたを、捕まえてみせます」
善なる少女と悪の青年の戦いが、幾度目かの幕を開けた。
大通りを
静寂が辺りを覆い、向かい合う両者ともに相手から視線を切らさない。
緊張の糸がきりきりと音を立てる中、悪の組織構成員〈乖離〉は──、
───くうっ、今日も推しがかっこいいいっ! そしてかわいいいっ!!
今日も今日とて、推し活に勤しんでいた。
〈乖離〉改め──本名、
そして目の前の少女、傍陽ヒナタこそが彼の“推し”であった。
彼の認識に則って言うならば、この世界は『私の
『わたゆめ』は、正義をもって悪を討ち果たす
…………である、はずだったのに、
──カッコイイだけでも神なのに、カワイイまで付いてくるとか正気ですか? ヒナタちゃんマジ二相女神っ!
なにをとち狂ったのか、この世界の管理者──そんなものが存在するのかは不明だが──は
この世界にあって自分は異物でしかない。
悲しきモンスターとはいえ、彼はそれを正しく認識している。
けれど、今の彼に“推し活”を自重する気は一切ない。
むしろこの世界の人間として生まれ変わったならば、よりいっそう近くで推しを堪能しなければ失礼に当たると言っても過言ではないのだ(過言)。
──ともかく。
推しの敵になったので、最前列で推しを眺めていたい!
この物語は、たった一つの願いから始まった。
──あとがき──
初作品になります。温かい目で見守っていただけると幸いですm(_ _ )m
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