5 負けるべき戦い

 事務所を出る前に、ユーリの現在地をレイアに割り出してもらった。


「やれそうか?」


「……こういう事も一杯教えて貰ってきたからな」


 レイアの動きはどこか躊躇う様に鈍かったが、それでも先程相対した情報からユーリの現在地を割り出す事には成功して、その情報を元にレイアと共に移動を開始する。


 数か月前、仕事で活用する為にバイクの免許を所得して、その後貯金を切り崩して少し良い感じのバイクを購入した。

 レイアを後ろに乗せて走る事も何度もあって、その度に決して悪くない気分を感じてはいたのだが、まさかこうして移動していて気分が優れないなんて事になるとは思わなかった。


 そうして県境を跨いで辿り着いたのは山間部にある廃村。

 此処にユーリが居る。


「どの辺に居るかは分かるか?」


「……まあ他県のこの場所を割り出している訳だからな。此処からユーリの居場所を辿るのは容易だよ」


 バイクを止めてそう尋ねると、レイアがそう言って指をさす。

 指されたのは少し離れた所にある他より少し大きい佇まいの民家だ。

 ……現状も此処から移動していないのだとすれば、おそらくまだ拘束を解けてはいないのだろう。解けていればこんな場所からは早々に移動してくるだろうから。


「……しっかしこの距離を飛んだのか。敵ながらすげえよ……流石自称異世界最強」


「自称なんかじゃないさ」


 少なくとも八尋よりもユーリの実力を知っているであろうレイアが言う。


「言葉の通りユーリはあの世界で最も強い男だ。なにせ最悪の殺人鬼を止めた男だからな……それは身を持って知っている」


「……そっか」


「ああ。しかもあの頃より強くなっている。多分この世界の転移魔術とは形式が違うからこの飛距離を飛べても不思議ではないが……二年前のユーリならもう少し手前の方のどこかに飛んでいただろう」


「それだけの実力者をこれから相手にしないといけない訳だ」


「……大丈夫か? ……本当に大丈夫なのか?」


 レイアが心配そうにそう聞いてきて、服の裾を摘まんでくる。

 本当に弱弱しく……こんな事になるまではずっと見せてこなかった姿だ。


(……俺がしっかりしないと)


 呼吸を整えながらそう考えて、レイアに言う。


「大丈夫。さっきも言ったけど策はある」


「いや、そういう事じゃ……」


「大丈夫……とにかくレイアは此処で待っていてくれ。さっさと終わらせてくる」


 まずユーリが拘束を全く解けていなかった場合は、レイアが居なくても八尋一人で事足りる。

 だがもしユーリの拘束がある程度解けていて、あの場でレイアを探す魔術などを使う為に留まっていた場合、おそらくレイアが居ても勝てない。

 それ以前にそもそも……この戦いでレイアを戦わせる訳にはいかない。

 ……これ以上、真っ当な人間の殺害に関与させてはいけない。


「八尋!」


 歩き出した八尋を止めるようにレイアが叫ぶ。


「本当に……本当に行くのか?」


「行くだろ」


 呼吸を整えて、八尋は言う。


「俺達はこれまで不殺を貫いてきた。でも実際碌でもない連中と戦う仕事をしている人達はどこかでその一線を越えてきた。で、お前を守る事には正当性がある。これからやる事は烏丸さん達がやってきた事と変わらないんだ」


 そんな嘘を、思ってもいないことを口にして再び歩き出す。


「勝ってくるよ」


 どこかでこの戦いには負けるべきだと思いながら。

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