幕間 自分という存在について
ex 自分という存在について
「……結局私は何に巻き込まれているんだろうな?」
その日の夜、烏丸の事務所にて八尋の淹れたコーヒーを飲みながらレイアはそう呟く。
「まさか烏丸さんでも解決できねえとはなぁ。あの人が関わってくれれば全部綺麗に解決するって思ってたんだけど」
八尋の怪我が治った後、レイア達四人は八尋のアパートへと現場検証へと向かった。
とはいえノウハウの無いレイアと八尋に出来た事など聞かれた事に応える位で、主に烏丸が魔術を駆使して現場を調べ上げ、時折おどおどと篠崎が口を挟む。そうして調査は進んだ。
そしてその結果はというと。
「しかも解決しないならまだしも、全く何も分からないって。多分これ俺達というか烏丸さんは世界最大のミステリーみたいなものに挑戦しているんじゃねえか?」
「……かもしれないな。笑い事じゃないが」
「その割には余裕の表情だな。烏丸さんが何も分からないって、本当にヤバい案件かもしれないってのに」
「ああ……何かあったら頼りにしてるぞ」
「善処します」
苦笑いを浮かべる八尋を見ながら、砂糖たっぷりのコーヒーを一口。
それを口にしながら昼間の現場検証の事を思い返す。
『すまない。一通り調べられる事を調べてみたけど、何も分からなかった。此処にある情報を元に色々な事を特定するという作戦は、完全に失敗に終わったよ』
一通り調べ終わった後、烏丸は本当に申し訳なさそうな表情でレイア達にそう言っていた。
だけどレイアには容易に読み取れる。
(……あの時烏丸さんは何を知ったのだろうか?)
烏丸は自分達に虚偽の報告を行っている。
絶対に何か。最低でも一つ以上の新たな情報を掴んでいるにも関わらず、それを自分達に伏せて何も分からなかったという事にしている。
(……あの人はちゃんと私を助けようとしてくれている。それは間違いない。つまり見つかった情報が私にとって開示できるような、していいような情報じゃ無かったという事だ)
おそらく善意で黙ってくれている。
善意で何も気付いていないふりをしてくれている。
それが分かれば問い詰める気にはならなかった。
人の善意を無下にしたくはないという事も勿論あるけれど、同じ位に善意で隠された情報を知りたくないのかもしれない。
どこかで知ってはいけないと本能で訴えているのかもしれない。
開示されなかった事に安心しているのかもしれない。
そして何も知らない自分に用意してくれた道は自分にとって心からそうしたいと思えるような事で。
そしてどこか本能的にこういう事をやらなければならないと訴えていて。
だからこのまま、何も気付かなかったふりを続けていく事にした。
それが正しい事なのかはわからないけれど。
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