第14話

「ダクター殿、国の魔道車工房からの依頼です」



「依頼?また珍しい所から」



あれから魔石を大量に吸収させ、ダンジョンもかなり大きくなった。採掘場も拡大して、採掘量もかなり上がった。



新しく金と銀と銅も採掘出来るようにしたが、これらはあまり量を増やしてない。特に金は採掘してはいるが、倉庫に眠ったままだ。



住居スペースも拡張した。人数が増えた為、地下にも同じ数の部屋を作った。後2階部分には家族で住める広めの部屋を作った。子供が居る人もいるし。



後は工房で働く若手の為に勉強会もしている。年寄り達は教えるのが上手くない。



というか、教える気が無いのだ。自分で作るのが優先で、教える暇が無いと言わんばかりに。気持ちは分からなくはないが。



そんなこんなで、僕もそろそろ空飛ぶ魔道車を作ろうと思ってたんだが。



ふむふむ。どうやら魔道車に色んな魔道具を乗せたいが、魔力の出力や、オンオフの管理が出来ないと。



それとゴーレムコアは予算と在庫の都合上使えないと。



報酬はヒヒイロカネ鉱石の購入権利と。



「は?」



「どうされましたかな?」



「この報酬本気ですか?」



「勿論ですとも。」



これはチャンスだ。ミスリル以外の魔法金属はなかなか手に入らない。しかも鉱石の状態でだ。それにこの依頼は簡単に達成出来る。後は鉱石の値段か。



「工房長。因みにこの鉱石は誰の持ち物?」



今目の前に居るのは国の魔道車工房の工房長のエルランだ。わざわざ依頼書を届けに来た。まあどうせこの工房の偵察も仕事なんだろう。何しろここのセキュリティはかなり強固だ。



「持ち主はローグランド侯爵様です。因みにその魔道車に魔道具を乗せて欲しいと言われてるのもローグランド侯爵様でして」



「因みにその鉱石の値段は?」



「金盤20枚です」



成る程ね。値段は妥当だな。払える金額ではある。前世のお金で言ったら2億だ。払えるからと言ってそう簡単に払える金額では無いが。



しかし、ヒヒイロカネ鉱石は欲しい。丁度空飛ぶ魔道具の開発で欲しかった素材なのだ。



1番簡単なのがプロペラを取り付けた飛行機だ。ただプロペラ機にはこの世界では大きな欠点がある。それが空飛ぶモンスターだ。せめて逃げ切れる速度が欲しい。なのでジェットエンジンみたいな物を作りたい。



ただジェットエンジンを作るには熱に強い素材がどうしても必要だ。そこでヒヒイロカネが最適になる。



ヒヒイロカネの特徴は、熱の影響を受けないと言う最強の耐熱素材だ。どうしても欲しい。



「例えばだけど、そのヒヒイロカネ鉱石をお金以外で支払うことは可能?」



「例えばどのような物で?」



んーー。やっぱりあれかな。



「例えば金塊とかどうだろう?」



そう。私蔵している金だ。金はあまり市場に出したく無かったのだ。理由は簡単、金貨が増えるのだ。



どの国でも金の価値は同じ位。そして必ず貨幣に金貨がある。それは金がお金に向いてるし、それ自体に価値があるからだ。



錆びない金属って特別たよねってやつだ。



そして今、国の豊かさはその国が発行している金貨の枚数だ。勿論純度の低い金貨を使ってる国は除外して。



なので大量の金はこの国だけでなく、周辺国にも大きな影響を与える事になる。



ただ、ここで疑問だが、なぜ侯爵がヒヒイロカネを持ち出してまでこんな話を持ち出したのか。



それは商人達の噂で、ガイザー帝国が自国の商人を使い、他国の金貨を集めてると言う話がある。



もし自国で金貨が不足したら、様々な所で影響を受けて、国の信用が無くなり、その国のお金の価値が下がり続けるだろう。



もしそこで何処かの誰かが金貨を大量に抱え込んでいるとしたら、その金貨を市場に出して欲しいだろう。



この予想が正しければ。



「成る程。ダクター殿は良く分かっておるようで。恐らく問題無いでしょう。金の相場の計算が出来次第連絡出来ると思います。それからダクター殿は今欲しい素材等はございますか?」



「そうだね。もし手に入るなら、オリハルコン鉱石か、アダマンタイト鉱石かな」



「やはりそうですか。それとこれは国からのお願いなのですが、資金は出来るだけ金盤での保管をお願いしたいとの事です」



「分かりました。因みにこれが設計図です」



「なんと。既に開発されていたのですか?」



「実はゴーレムコアの入手が出来ない場合を考えて作っていた物で。現物もあるのでそれも持って行ってください」



そう。僕が渡したのはコンダクターの設計図だ。指揮者って事ではなく、電磁接続機のコンダクターだ。



これがあれば簡単にオンオフが出来、ミスリルの太さを変えれば、魔力の出力もコントロールしやすくなるだろう。



「ありがとうございます。まさか今日で成果を出せるとは思いもしませんでした。ヒヒイロカネ鉱石の件は出来るだけ早くお伝えします」



「僕も良い話を聞けて良かったよ。宜しくね」












「ふっふっふっ。爺さんや、遂にこの時がきた」



「ダクターよ。待ちわびたぞい」



「お前さん達、嬉しいのは分かるが話を進めてくれ」



「じゃあまずは安全の為にも魔道飛行機では無く、魔道浮遊機を作ろうと思う」



「つまりどういう事じゃ?」



「取り敢えず、高い所で事故が起きたら危ない。高さによっては落下で死ぬ。だから前に爺さんから聞いた飛行実験の話から思い付いた。風の魔法のアブソープションの刻印魔法を使って浮遊させる」



「しかしのう、あれは落下の衝撃から身を守る為に圧縮した空気を纏うやつじゃぞ?」



「そう。それ。発動すると空気の上に乗れるでしょ?その状態で前に進むかんじ」



「だが浮いては居るが、車輪も無しでは生半可な力では前に進む言はできぬぞ?風魔法のエアバーストでも動くのがやっとだったのだぞ?しかも燃費が悪すぎるわい」



「そこで考えたのがこのジェットエンジンだよ。先ずは一人のりを考えて作ったんだけど、大事なのはこのジェット。こんな感じの構造にして、ここにエアバーストの刻印とここにフレイムバーストの刻印を」



「待て待てお主、確かにその2つを合わせれば威力は乗算じゃ。だが大事なことが抜けておる。そんな火力に耐えられる素材が無いじゃろ?」



「あると言ったら?」



「お、おぬし、まさか?手に入れたとでも?」



「ふっふっふっ。その通り」



僕は取り出した鉱石を机の上に乗せる。



「まさかワシでも手に入れられない物を・・・」



絶句している爺さんは放っておこう。



「そこでゴドランはこれを加工出来る?」



「ヒヒイロカネか。出来ない事はないが、魔力の関係でかなり時間がかかるだろう」



難しい顔をしている。やはり問題は魔力量か。ならあれを渡そう。



「ゴドラン。これを食べてみて」



僕が渡したのは桃だ。



実はこの桃を食べるとまる1日全能力が上がるのだ。しかも持続して食べ続けると、なんと本来の魔力量まで上がると言うおまけつき。



どうやらあの桃の樹は、周辺の大地から根こそぎ魔力を吸収してるらしい。



それによりラビの魔力も無くなりダンジョン崩壊して、周辺にモンスターが生息していないみたいだ。



因みにこの崖側は魔力が溢れてるらしい。ここでダンジョンコアを復活して良かったよ。



それと同時に周辺の土の栄養を豊富にもしているようだ。つまりあの桃の樹は特別な樹なのだ。



「これを食べれば良いのか?」



そう言って桃を食べた。



「こ、これは」



ゴドランの顔が驚愕に満ちている。そうだろう。なにせ旨い上に力が溢れてくるのだから。



「これは凄い。力が溢れてくるようだ。確かにこれならもう少し効率良く加工出来るだろう」



「おぬし、またそんな物を隠し持っておったのか?」



「これはとても貴重なものだからダメだよ」



「頼む。最近腰も痛いし体力もないし、とても大変なのじゃ。おぬしもワシに長生きして欲しかろう?」



「仕方ないな。分かったよ爺さん。他の人には話さないようにね。後これは直ぐ腐るから直ぐに食べるように。後2日に一個ね」



こうして遂に空飛ぶ魔道具への第一歩が始まった。


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