人生最高の瞬間
完全に油断していた。
まさか、関さんがその身を
こんな小っちゃくて、髪もサラサラしていて……
「…………っ!」
「有馬くんの
「せ、関さん……。こ、これは……いったい」
「……あ。ごめん、わたしってば……なぜか体が勝手に」
急いで起き上がる関さんは恥ずかしそう俺から離れた。すげぇ慌ててる。俺は今になって心音が高鳴った。
十秒にも満たない、刹那的なひざまくらだったけど人生最高の瞬間だった。
ひざまくらされるより、する方が実は幸福なのかもしれない。
「いや、嬉しかったよ。十分癒された」
「じゃ、じゃあ……次は有馬くんの番だね。ほら、ここ」
だが、周囲に人通りも増えてきた。
他人の視線がちょっとな。
「こ、今度でいいよ。さっき関さんをひざまくらできて俺は満足だから」
「それはその不可抗力というか……! なんか、ごめん……」
関さんは謝りながらも顔を真っ赤にした。なんて可愛いんだ。
気を取り直して寄り道を続けた。
鬼塚公園をゆっくりと歩き、まだ知らないお互いのことを話した。
「俺はこの公園の近所に住んでる。ここから徒歩五分の場所に家があるから、いつでも寄れるよ」
「有馬くんの家ってそんな近いんだ。学校も近くて羨ましいな~」
「学校が近いとズル休みし辛くて大変なんだよね」
「あー、それはるかもね」
散歩道を歩いていると、犬の散歩をしている主婦とすれ違う。犬は、なぜか俺の方へ寄ってきて甘えてきた。このパターンがかれこれ五回は繰り返されていた。
「おぉ、柴犬のライコウじゃないか……よしよし」
「わ~、有馬くんって犬に好かれてるよね。さっきから凄い」
「なぜか知らないけど昔から動物の方から寄ってくるんだ。そのせいか分からないけど、人間の友達はいなかったけど……」
悲しいかな、動物の友達は多かった。これが人間の方に振り切っていれば、また違った人生があったかもしれない。けど、今はこれで良かったと思う。
そうでなければ関さんと出会うことがなかったかもしれない。
「そうだ、関さんもライコウを撫でるといいよ」
「か、噛まない?」
「大丈夫だよ。ライコウは賢くて可愛いんだぞ、ほら!」
よ~しよしと俺はライコウを撫でまくる。
めちゃくちゃ嬉しそうに甘えてくるライコウ。本当に可愛いな、柴犬は。
今度は関さんに撫でてもらう。
「い、いくよ」
「そんな怯えなくても大丈夫だよ。さあ、手を伸ばして」
「うん……」
慎重に手を伸ばす関さん――だったが。
『ガウガウガウガウッ!!!』
いつも温厚なライコウが目つきを変えて吠えまくった。
「ひぃやぁぁぁあっ!!」
驚いて俺の背中に避難する関さん。なんてこった、ライコウが吠えるなんて……。こんな光景初めて見たぞ。
その後も何度も挑戦するが、ライコウはとうとう
「関さんって、まさか……」
「うぅ……。犬も猫も好きなんだけどね、でもいつも嫌われちゃうの……」
そ、そんな欠点があったなんて知らなかったぞ。前に会った時、子猫を助けていたけど……あれは生後間もない感じだったからな。たまたまセーフだったわけか。
「俺、動物に嫌われるタイプの人、はじめて見たよ」
「……穴があったら入りたい」
しょんぼりする関さんは、頭を抱えてしまった。
なんとかしてあげたいけどなぁ。
むぅ、帰ったら調べてみるかな。
一周回って鬼塚公園を出た。
すると、ちょうど親父が目の前を歩いていやがった。
「ちょ、親父!!」
「……純!! し、しまった!!」
「逃げるんじゃねえ、クソ親父!」
俺は親父の腕を掴み確保した。
十七時三十六分、緊急逮捕だ。もう逃がさないぞ!
「……くそっ」
「なんで悔しがるんだよ。……丁度いい、関さんもいるから三人で話し合おう」
「なんだ、純。
「デ、デート言うな。いや、間違ってはいないけどさ」
「許嫁の件、そんなに気になるか」
「あたりまえだ! いったい、関さんのお父さんと何を約束したんだ」
「よかろう。話してやらんでもない。ただし……」
「ただし?」
親父は真剣な眼差しで俺と関さんを見た。なんだ、この重苦しい空気。いったい、どんな条件を突きつけてくるんだ……?
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