隣の席の関さんが許嫁だった件

桜井正宗

隣の席の関さんと運命の出会い

 きっかけは『猫』だった。

 道路のド真ん中に子猫がいたんだ。


 なぜ、あんなところに。いや、そんなことはどうでもいい。


 車が猛スピードで迫っていた。

 このまま放置していたら子猫は当然、かれてしまうだろう。


 俺は猫とか犬が好きだ。

 だから助けに行こうと思った。



 だが、俺よりも先に飛び出した女子ヤツがいた。名前は分からない。とにかく美少女で……可憐で、不覚にも目を奪われてしまった。

 彼女は、子猫を助けに入った。


 子猫を拾い上げたまでは良かった。

 けれど、途中でつまずいてしまった。

 馬鹿みたいに前に倒れて――でも、子猫だけは両手で見事にすくい上げていた。すげぇ、芸当だ。なかなか出来ることじゃない。


 でも、このままでは彼女も、猫子も轢かれてしまう。


 俺は気づけば足が勝手に動いていた。

 走って、走って走りまくっていた。



 間に合えええッ!!



 必死に走り、なんとか倒れている女子の元まで辿り着いた。俺は小さくうずくまっている少女を小脇に抱え……救出した。


 その一秒後にクラクションを激しく鳴らす車が通り過ぎていった。物凄いスピードで。……てか、明らかに法定速度を上回っていただろ! 速度違反だぞ!



「だ、大丈夫かい、キミ……」

「…………」


 さっきの状況にヒヤっとしたのか、少女は呆然としていた。


「子猫、助かって良かったね。じゃ、俺は……ん!?」


 腕を引っ張られた。

 少女はノロノロと立ち上がり、ようやく口を開いた。



「あの……有馬くんですよね」

「え……そうだけど。なんで俺の名前を?」


「同じクラスだから。ほら、わたし……隣の席のせき 咲良さくらだよ」


「ああ……だよね。どおりで美人だと思ったよ」

「び、美人とかお世辞はいいから。それより、猫を助けてくれてありがとね」


 とんでもない可愛い笑顔を向けられ、俺は心臓がコンマゼロ秒で吹き飛ぶところだった。なんてスマイルだ。



「……いや、当然のことをしたまでだ。礼を言われるほどのことは……」

「ううん、有馬くんは凄いよ。猫とわたしを助けちゃうんだもん」


「そ、そうかな」

「そうだよ。良かったら、一緒に子猫の面倒を見てくれない?」

「マジか。構わんが、どうやって……」

「この子は保護するから、家へ来てくれるとありがたいな」



 ふむふむ……家ね。


 って、家ィ!?


 それってつまり、関さんの家へ行くことだよな。


 まてまてまて!!


 そんなのクラスどころか学校中の男子が黙っちゃいませんぞ。もれなく、文房具で死刑リンチだ。俺はもう二度と学校生活を送れなくなるだろう。


 リスク高すぎィ!


 というわけで、総合的に考えて――。



「す、すまない。誘ってくれて嬉しいが、俺は用事が」



 なるべく関さんを傷つけないよう、遠回しに断った。これで大丈夫だろ!



「そっかー。でも、有馬くんには家に来て欲しいんだけどなぁ」

「はい!?」


 ちょっとまて。

 関さんは、なぜそこまで家へ行って欲しいんだよ。助けたくらいで……!? いや、助けられた側からすれば、そう思いたくもなるのか。


 お礼をしたいという気持ちもあるのだろう。


 だが、普通の高校生活を望む俺にとっては、リスクでしかない。



「隣の席同士だし、それにね……ちょっと話そうと思っていたこともあるんだ」

「そ、そうなのか。なら、学校でいいんじゃない?」

「学校では話せないから」



 学校では話せない……?

 どういうことだ。

 そんな隠すような内容なのか。


 いったい何なんだ。

 ちょっと気になるけど……でも。



「うーん……」

「分かった。覚悟を決めるね」

「なんの覚悟!?」



「実はね……。わたしと有馬くんは“許嫁いいなずけ”なの」


「は……!? はああああああ!?」



 突然すぎる告白に、俺は頭が真っ白になった。


 これ冗談だよな?


 関さんって、こういうノリの女子だったのか。


 美少女であろうとも、欠点のひとつやふたつあるだろうけど……まさか、許嫁とか言い出すとは思わなかったな。



「その顔は信じてないね」

「そりゃそうだ。ジョークとかドッキリならそう言ってくれ」

「冗談で言わないよ。もっと前から言おうと思っていたんだけどね……なかなかタイミングとか合わなくて」


「……信じられないんだが。俺と関さんの接点なんて、同じクラスで隣の席ってだけじゃないか」


「それが両親が仲良いんだ。家へ来れば分かると思う」



 そんな馬鹿な。ウチの親父はそんな話してくれたことなかったぞ。

 関の“せ”の字も聞いたことがない。


 いったい、どういう関係なんだか……。


 関さんがそこまで言うのなら、本当に許嫁なのかどうか聞いてみるか……。


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