5-3

 もう周りは上を下への大混乱である。ステージに尻もちをついた司会者、どよめく観客席、ヒステリーを起こして泣き出してしまった候補者もいる。


 キイイン、というハウリングの音を響かせて、大音量はまだ続いている。わたしは足をもつれさせながら観客席の方へ走り出た。群衆の中で上を見上げる。


 青空をバックに、誰かが立っていた。


 なんだなんだ、とざわめきが聞こえる。みんなが上を見上げている。視線の先にあるのは、我が大学のシンボル、時計台。その上に立つ背の高い青年。そして、その手に握られたメガホン。やがて、青年がおもむろにメガホンを口に当てた。


「おい、お前ら!騙されんなよ!このミスコンは、コントロールされてるぞ!!!」


 ざわざわ、とどよめきが大きくなる。ステージの上で湊さんが呆然と立ち尽くしているのが見える。


 剣崎は嬉々として続ける。


「このイベントはあ、宗教法人○○による、出来レースじゃあああ!」


 叫びと共に、剣崎の手を離れて白い紙切れが空を舞った。何十枚も何十枚も、青い空を背景にして白い紙が振ってくる。地面に落ちたそれをひらりと拾い上げてみる。


 それは、ファイナリストの名前を羅列したオッズ表だった。


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