第33話国王side

 

 世間を騒がせている話題の裁判を一目見ようと誰もが傍聴人になりたがった。


 名門侯爵家のまつわる裁判は父と息子の両方が別々で裁判をしているが、注目されているのは息子の方だ。


 傍聴希望者が多過ぎて、抽選を行うことになったほどだというから相当である。

 そんな大人気の裁判なので当然のことながら新聞にも取り上げられ、さらに人々の関心を呼ぶ結果になっていた。


 名門貴族のお坊ちゃまに孕まされ結婚を拒否された悲劇のヒロインから一転して、非合法の薬物や道具を使用してまで妊娠し男に結婚を迫る鬼畜な悪女へと評価が変わったエラ・ダズリン男爵令嬢。

 裁判では己の過ちを嘆き恋に盲目になった自分を嘆き悲しむような態度を取っていると聞くが、それもどこまで本当か分からないという。

 その証言内容を聞いた時、彼女は思わず声を出して笑ってしまったものだ。それと同時に、どん底の状況でありながら毅然と時に心情に訴える涙は、さすがに元女優の娘だけあって迫真の演技だと感心した。とうの母親は女優としては三流だったようだが。どうやら娘の方は役者としての才能があるようだ。



「ダズリン男爵令嬢も必死なのでしょう。なにせ後がありませんからね」


 王家の影に傍聴人として参加させていた。

 彼は若干エラ・ダズリンに同情するような口調で言う。


「なにしろ、このままでは実家の男爵家は取り潰されてしまうかもしれないの訳ですからね」

 

「男爵の様子はどうだ?」

 

「昨日、夜逃げしようとしてましたので別部隊が捕獲いたしました」

 

「やれやれ、娘と孫を捨てて一人だけ逃げようとは。情けない父親だな」

 

「全くです。それならば最初から娘を止めておけば良かったものを。相手が侯爵家の跡取り息子だ知り欲が出たんでしょう」

 

「始めは上手くいっていたからな」

 

「はい。それも事実が明るみにでれば『自分は知らなかった』の一点張り。馬鹿げてます。『娘は未来の侯爵夫人だ』と社交界で吹聴していたというのに。今更そんな言い訳が通るはずがありません。おかげでただでさえ娘のせいで落ち込んだ評判が更に地に落ちてしまいました」

 

「自業自得だな」


 エラ・ダズリンは男爵家に戻れる可能性は無いだろう。もし仮に実家に戻ったとしてももう遅い。男爵家からの縁切りは確定しているからだ。そうなると残された道は一つしかない。何が何でもライアン・キングとの結婚。

 

「だがダズリン男爵家には借金はないはずだろう?確かかなり裕福な家庭だと記憶しているが……何故ここまで追い込まれているんだ?」


 ダズリン男爵家はそれなりに資産を持っているはずだ。そうでなければいくら一人娘だからといって爵位のない貴族の家に嫁にやることは出来ない。元々は平民から貴族になった家だ。今は真っ当な商売をしているが、数代前は高利貸しで財を成していた。その金を数代で使い潰せるとは思えないが。男爵が経営している商店は次々と閉鎖に追い込まれている。

 

「どうやら商品が輸入できないようです」

 

「なに!?」

 

「ダズリン男爵家の経営する店は輸入品が大半です。その輸入先の国が商品を売るのを拒否していると専らの噂です」


 影の話を聞いて納得した。

 恐らくタナベル家が動いたのだろう。

 あの家は他国にも多くの店を置いている。各国の商人や貴族とも懇意だ。ダズリン男爵家との取引をやめるように圧力をかける事も容易い。息子をコケにした男爵家を彼らが見逃すわけがない。


「タナベル家も随分と手荒なことをする」

 

「まあダズリン男爵家にとってはいい薬でしょう」


「いい薬ですむか?このままいけば近い将来爵位を返上することになる」

 

「それこそ陛下の望む未来ではありませんか。ノア様を『男娼』と呼んで汚く罵った男とその一族をそのままにする気はないのでは?既に公爵閣下も動かれているとの報告を受けております。一年後の御婚礼までにはダズリン男爵家の名が無くなっていることでしょう。それに……」

 

「なんだ?」

 

「いえ、なんでもございません。こちらの独り言にございます」

 

「ふんっ、まあいい。ところでダズリン男爵は本当にエラ・ダズリンの実父なのか?報告書には怪しい点が幾つもあるぞ?」

 

「まあ、そうですね。ダズリン男爵家の血を引いている事は間違いありません。ただ父親が誰か、となると話は違ってくるでしょうね。そもそもエラ・ダズリンの母親のパトロンをしていたのは男爵の父親の方ですから」

 

「年寄りの父親から息子に乗り換えたという所か」

 

「はい。もっとも乗り換えた後も両方と関係を維持していましたから節操なしということになりますが」

 

「その証拠に現男爵は未だに二人目の妻を持っていません」

 

「最初の妻がエラ・ダズリンの母親を追い出した時に愛人契約も同時に切れたということか」

 

「はい。丁度、先代男爵が危篤状態でエラ・ダズリンの母親が『腹の子供は男爵様の子だ、跡取りはこの子だ』と言ったのがきっかけでしょう。現男爵は知らないようですが、家中で随分揉めたそうです」

 

「はっ!母娘共々同じような事をしでかしているではないか!!」

 

「本当です」


 思わず笑いそうになった。

 エラ・ダズリンは母親に瓜二つの容貌だと聞く。だが中身も似通っていたようだ。親子揃って同じことを繰り返すとは。


「男爵家の使用人たちも当時の騒動を知っている者が多かったようで、執事などはエラ・ダズリンを男爵家に引き取る事に大反対したようです。彼女が魔力持ちだと言う事で仕方なく認めたそうですが」

 

「懸命な判断だ。魔力さえ発揮しなければ何が何でも家に入れなかっただろうな」

 

「はい。しかしまさか、違法な手段を使う娘だとは思いもしなかったのでしょう。今、執事は男爵家での対応に追われているそうです。頼りにならない当主に見切りをつける使用人も多いようで、彼らは再就職先を斡旋しているそうです。彼らもまさかこんな風に男爵家が落ちぶれる事になるなんて思いもしなかったでしょう」

 

「ああ、全くだ」

 

「……それでは私共はこれで失礼いたします」

 

「分かった。後はこちらに任せておけ」

 

「ありがとうございます」


 影は頭を下げて去って行った。



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