第3話邸宅に引っ越し


 怒涛の展開の速さに頭が追いつかない僕だけど、嫌でも時間は過ぎ朝は来る。二日しか経っていないのに濃厚すぎたせいか現実感が湧かない。

 まぁ、キング侯爵の襲来が土曜日で良かったよ。次の日が仕事だと色々と支障が出るから。

 朝食を終えて、両親と共に父が所有する別宅へやって来た。

 ここは王都のタウンハウスとは違って貴族が住む邸宅と違ってこぢんまりとした屋敷だ。隠れ家的な屋敷なので、無駄な装飾はされておらず必要な設備だけ揃えられたシンプルな造りをしていた。その分機能的で過ごしやすいから、僕の好みに合っていたりする。


「暫くの間はここに住むといい。王宮にも近いからな」

 

「分かった」


「キング侯爵の事だ。自分達に都合のいいタイミングでライアンと浮気女の婚約発表を行うはずだ。そうなればノアの周りもハイエナ記者が群がってくるのは必定。ここなら知っている者は限られる。騒ぎに巻き込まれないように


 そう言うと父は別邸の僕の部屋の隣室の前まで案内すると、「この扉から王宮の魔法薬研究所に繋がっている。いざという時はここから入りなさい」と言って鍵の役割を果たす腕輪を渡してきた。なんでも僕以外は使用できない仕組みになっているらしい。

 これ、かなり高レベルの防犯対策が施されている代物じゃないか?!

 よく王宮の許可が取れたよね。いや、待てよ。確か父さんは「王家に許可をとった」と言っていた。どいう事は、国王と極一部の者しか知らないんじゃ……。

 

「いいか?くれぐれも無茶だけはするんじゃないぞ」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

「何かあったら直ぐに連絡してきなさい。あと、これは通信用のマジックアイテムだ。身に着けておくように」


 父さんから渡されたのは魔法石のピアス。

 小粒の魔法石はエメラルドのように輝いていた。通常の魔法石は赤茶のまだら模様をしているのに対して、魔力によって輝きを放つ宝石質のものは大変希少なため価値も高い。僕も初めて見たよ。一体いくら積んだんだ?!

ただの通信用だけの機能じゃない事は確かだ。きっと他にも色々な機能が付いているんだろう。それは僕でも分かる。


「このピアスは様々な効果があるノア専用だ。お前以外には使えないし外す事もできないようになっている。だから、どんなことがあっても必ず肌身離さず持っているんだよ」


 そう言いながら、父に両耳とも付けられてしまった。

 流石は他国にも支店を持つ王国一の大商人。やる事が違う。


「分かった。ありがとう父さん。母さんも心配かけてごめんね」


 僕は両親の顔を見ながら感謝の言葉を口にする。

 父さん達は、これから商談の打ち合わせがあるらしく忙しなく準備をしている。そんな両親の後ろ姿を見ながら、姉さんがそっと話しかけてきた。

 

「ノア、心配はいらないわ」

 

「姉さん……」

 

「後の事は私達に任せなさい。貴方は自分のことだけ考えていればいいのよ」


 姉さんの優しい眼差しに泣きそうになった。やっぱり持つべきものは頼りになる家族だな。改めてそう思ったよ。




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