亡霊少女とミツギ小学校の怪事件
@hayamannbo
亡霊少女と体操服
第1話 亡霊少女
ミツギ小学校の五年生、夕姫ゆうこには悩みがあった。
「げっ、あいつ……」
「亡霊女! まだいたんだ」
「こわ〜……あいつんち、父ちゃんが人殺しなんだろ?」
「そうそう。だからあの子も殺されてて、人間のふりしてるけど……ほんとは化けで出てきてるんだよ」
五年二組は仲良し二組。のけものなんていないし、いつも男女混ざって中遊びをする。担任の先生も少し鈍臭いけどいい人で、差別なんてするわけない。
……ゆうこ以外。
「…………」
長い前髪を俯かせて、ゆうこはスカートを握りしめた。母が少ないお金で買ってくれた大事なスカートだ。
もともと、ゆうこは友達が多い方ではない。
「……な、お前もそう思うよな? うさぎ!」
「え……」
ゆうこの悪口を言っていたグループの中、気弱そうな女の子が顔を上げた。色素の薄い茶色の髪がふんわりと跳ねる。いつも可愛らしくふわふわとしていて、ちょっとおどおどしている女の子。彼女こそが、ゆうこの唯一の友達だった。
「……そ、うだね。怖いよね……」
少し前。傷害事件を起こした父が、警察に連れて行かれた。そこからゆうこの生活はどん底に落ちて行った。
綺麗な机の上に幾つか本を出す。唇を噛み締め、気にしてないみたいに表紙を開いた。
(つらくない、つらくない。わたし、いじめられてないから)
いじめというのは、無視したり持ち物を傷つけるようなことだ。ゆうこはそんなのされてないし、話しかけたら答えてもらえる。
ただ少し、居心地が悪いだけだ。
(亡霊じゃないもん。わたし、生きてるし)
父だって人なんて殺してない。ただ酔っ払いに絡まれて、それが執拗で、その日はゆうこの誕生日で、急いでいて、突き飛ばした勢いがつき過ぎただけだ。
「うわ。まーた本読んでるよ。陰気くさ!」
「ねえ知ってる? あれって呪いの本なんだって」
「こっわ。俺らも呪われちゃうかも!」
(推理小説……だし!)
幽霊ゆうこ。それがこのなかよし五年二組の、ゆうこの立ち位置だった。
体を縮めて小説の中へ没頭していると、中のキャラクターはいきいきと動いた。明るくてちょっと意地悪で、でもとっても賢い主人公が難解な事件を紐解いていく。いつも一人でひょうひょうとしている彼は、ゆうこの憧れだった。
食い入るように文章を追うゆうこに、ふっと影がかかった。
「夕姫。おはよ」
「ひっ……」
ビクッと肩を跳ねさせる。唐突に声をかけられて、本を取り落とした。声を掛けてきた相手はゆうこの返事には興味がないらしく、自分の席へすたすたと歩いて行っていた。
少し跳ねた、男の子にしては長い黒髪が日を浴びて紺に光る。驚いて顔を上げたゆうこは小さくおはよ、と呟いて、自分より二つ前の席の男の子を見つめる。
「あ、如月くん! おはよう!」
「ゆうこなんかに構ってあげてやっさし〜」
「ね、今日一緒に帰ろ!」
……すぐに女の子に囲まれて、乗り遅れた男の子達が慌てたように輪に加わった。
ミツギ小学校のナンバーワンイケメン、如月マサトくん。一番不人気のゆうことは大違いの、頭も良くて運動もできる、友だちも多い一番人気の男の子だ。
(……いいな)
ふぅ、とばれないようにため息をつく。ゆうこだってあんな風に人気だったら、お父さんの手紙にも書けたのに。
そこまで考えてかぶりを振る。彼だってきっと苦悩はあるはずなのだ、自分だけだって思っちゃいけない。
(……明日は、みんなに挨拶しよう)
マサトくんはいつも挨拶を欠かさない。きっとそれが人気の秘訣なのだ。
(気持ち悪がられても……続けてれば、きっと)
今より悪くなることなどないのだから。ゆうこは愚かにも、担任の先生が来るまで一人、そんな妄想で楽しんでいた。
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