親の金でのうのうと暮らす独身貴族のぼっちドライブ

赤城康彦

序章

 オレには友達がいない。

 不器用だったり発達障害だったり、色々あって。友達はいなかった。

 家も貧乏で、みんなが当然持ってるゲームや漫画がなかった。

「こいつ、つまんねーの」

 とか言われて、いじめられて、

「こいつの相手をするな」

 と、ハブられて。

 友達も恋人もいない10代を終え、そのまま変わらぬ20代に入った。

 この不景気で正社員の働き口はなく、派遣会社の社員、つまり非正規雇用で、ある工場で働いていた。

 お金も、子供のころからなかった。

 唯一の趣味は、読書だった。三国志だの水滸伝だのとか読んでいた。そういった本はお金がなくても図書館で借りられるので、色々読んだ。貧乏人にとっては近代図書館制度には感謝しかない。

 が、読書なんて若いくせにおじんくさい、そんな目が痛くなるものよく読めるな、やっぱりおかしい、とか、気持ち悪いと言われて。読書も立派な、嫌われる理由となった。

 それはそれとして、読む本の傾向が変わり、三国志や水滸伝の物語系統から、地図や旅行記や、酷道ものとかになって。いろんなところに行きたいと思ったが。

 お金がなく車も買えないから、そういった類の本で我慢していた。

 そんな状況が変わった。

 親父がにわかに独立し、会社を興した。オレも派遣会社を辞めて、親父の会社で働くことになった。

 事業は成功。お金ができた。

 あの、気持ち悪い読書好きな貧乏人のあいつが、にわかに金持ちになった。という話が知らないうちに広がった。

 コンビニ駐車場で、たまたまかつてのクラスメート(男)に会った。そいつは家族連れだったが。

「まだ独身? 金があるくせに」

 なんて言われた。もうこのコンビニには行かない。

 オレは無視して愛車のミライースに乗って、その場を離れた。

 自分の貯金金額を思い出し、嬉しい反面苦笑する。たしかに人は金では買えない。金ができたところで、ひとりもんなのは変わらない。

「客よりいい服や車は買うな」

 と親父は言い。確かにそうした方がいいなと思って、車は軽四のミライースにした。維持費の安いおかげで、お金が残る残る。

 服も量販店で安めのものを着ている。

 そうしてても、あの会社の2世ってことで、お金があるのがばれるけど。

 そう、おれは嫌われ者の、ぼっちの独身貴族。お金で人を買えないことを痛感していた。

 だから、全てを受け入れて、独りで生きて独りで死ぬと、考えていた。

 自分にも人にもベストな人生とはと考えて。みんなから忘れられて、ひっそり消えるのがいいのだろう、とか考えていた。

 お金で、人は買えない。貯金金額や次期社長の肩書などクソの役にも立たない。

 そんなオレの新たな趣味がドライブだった。

 愛車のミライースはノーマルだが、車系量販店で売っている廉価ホイールに履き替えていた。

 そうそうオレの名前は……、まあ、いいか、オレの名前なんて。とりあえず、ヨシと呼んでくれ。

 これは、そんなオレことヨシの、なんでもないドライブの話。

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