第24話 業欲の宵闇
アスフォデルに連れられて車で1時間ほど移動した場所にあった古城の跡地を目的地として一直線に進んでいく。
夜の闇の中、月明かりだけが頼りの視界の悪い中、周囲に目を凝らしながら走る。
(ついたのう……)
辿り着いた場所は昼間に訪れたときと同じく荒れ果てている。
ただ違う点を挙げるとするならば辺り一面に漂う禍々しい魔力だろう。
その魔力はヴェルキアをもってしても背筋が凍るほどの威圧感を放っていた。
周囲を警戒していると暗闇の奥から足音が聞こえた。
そちらに目をやると一人の少女が佇んでいるのが見えた。
月の光に照らされた少女はどこか儚げで幻想的な雰囲気を纏っているように見える。
先ほどまで一緒にいて、あどけない笑顔を向けてきていた彼女とは全く異なり、こちらを見下し、冷たい視線を向けてくるその姿は別人にしか見えない。
そんな少女に向けてヴェルキアはゆっくりと近づいていく。
「貴様、ヴァルディードだな? アスフォデルはどうしたのだ」
ヴァルディードは醜悪といった表現が似合うような笑みを浮かべて答える。
「ご名答。我がヴァルディードだ。短い付き合いになると思うが、よろしくな?」
そう言ってヴァルディードは右手を差し出す。
しかし、それに対してヴェルキアは嫌悪感を露わにして吐き捨てるように言う。
「アスフォデルはどうしたと聞いている!」
ヴァルディードは肩をすくめて答えた。
まるで小馬鹿にしているかのような仕草だった。
「アスフォデル? 奴なら無事だぞ」
「何?」
「我がこの身体を掌握した以上、今はただただ我のすることを見ていることしかできぬがな、くく、はははは!!」
ヴァルディードは高笑いをする。
それはどこまでも響くように大きく、それでいて耳につく不快な笑い声だった。
それを聞いていたヴェルキアは怒りを滲ませて睨みつける。
だが、そんな睨みなど全く意に介していない様子でヴァルディードは続ける。
「いやいや実に愉快だよ。助けてヴェルとお前に必死に助けを乞うているぞ?」
「アスフォデル……!」
「はははは!! 自らの選択が招いた結果だ! だというのに見苦しいことこの上無い。笑いが止まらぬ!」
「貴様ァ!!」
激昂したヴェルキアはそのままヴァルディードに向かって駆け出す。
対してヴァルディードはそれを余裕を持って眺めているだけだった。
「いいのか? この身体はアスフォデルのものだが?」
「っ!!」
ヴェルキアが動きを止めたのを見て、ヴァルディードは右手に魔力を込める。
「どうした? 来ないのか? なら昼間のアスフォデルのリベンジでも果たしてやるか」
そう言うと同時にヴァルディードの姿が消える。
いや、正確には目にも留まらぬ速さで動いただけだ。
次の瞬間にはヴェルキアは衝撃を受けて吹き飛ばされていた。
そのまま地面を転がるようにして飛ばされていく。
なんとか受け身をとって着地すると即座に顔を上げる。
そこには既に距離を詰めたヴァルディードの姿があった。
そして今度は左手に魔力を込めて殴りかかってくる。
その攻撃をかろうじて躱すも、すぐに次の攻撃がやってくる。
何とかガードするもその衝撃によって再び地面に転がされる。
あまりの速さに対応できず、防戦一方となる。
そして何よりも今までの戦いと異なる点があった。
(あやつの攻撃、めちゃくちゃ痛い!)
それは
ゲームの中ではないので計測は不可能だが、ヴェルキアの地力の魔力である160万は確実に超えていると思われる。
ヴァルディードの攻撃は大地を抉ったアスフォデルの魔法ですら痛みを感じなかったヴェルキアにダメージを与えていた。
『お前から離れるということだ。もし身の危険を感じたら全力で逃げ出せ。絶対に無理はするなよ』
(かと言って逃げることはできん!)
シオの忠告通りに無理はしたくはない。
だが、ここで逃げればアスフォデルを助ける機会は永遠に失われることだろう。
だからこそ、立ち向かうしかない。
「なんだ? 反撃してこないのでは面白くないではないか」
ヴァルディードはそう言ってつまらなさそうにしている。
その間にも彼女は次々と攻撃を仕掛けてくる。
一撃受けるごとに意識が飛びそうになるほどの激痛が走る。
「そら、シャドウランス!」
「ぐぁっ!」
腹部に強い衝撃を受けると、身体が宙を舞い、地面にたたきつけられる。
(アスフォデルのシャドウランスとは比べ物にならぬ! やはり魔力が段違いだ!)
心の中でそう叫ぶ。
それでも諦めるわけにはいかないのだ。
痛む身体に鞭を打って立ち上がると、目の前の敵を見据える。
「ふっ」
「?」
「いや、さすが人質を取らぬとまともに戦うこともできぬへなちょこだと思っての。この程度の魔法では何発撃ってもわしにダメージは与えられんぞ?」
挑発するように言ってやるとヴァルディードは目を細めて笑う。
「悪くない挑発だ、お前のことが好きになりそうだ、ヴェルキア」
ヴァルディードは嬉しそうにそう言う。
その目はギラギラとした輝きを放っているように見えた。
「ふん、そいつはありがたいの。だったら人質を解放してわしとサシでやってくれても構わんのだが?」
「そうしてやりたいのは山々だが、我にはこの後の仕事が詰まっておる、そして――」
ヴァルディードはそこで言葉を区切ると、口角を上げる。
その表情は醜悪そのものであったが、どこか美しくもあった。
そして――。
彼女の背後に紅色の魔法陣が出現する。
「エーテル体のみでも、お前ごときを仕留めるのに何ら問題はないが、新たな器を探すのも面倒なのでな」
魔法陣から放たれる異常な熱は、地を焼いている。
それを見ながらヴェルキアは冷や汗を流しながら思考を巡らせる。
(あの魔法、ヴァルディードの必殺魔法の1つか?!)
ヴァルディードの放つ魔法の中でも最大級の威力を誇る魔法であり、その炎の熱は太陽の放つプロミネンスに匹敵するという設定だった。
範囲こそ狭いものの、単体相手としては最強クラスの威力を持つ。
ヴェルキアが魔法の威力に戦慄していると、ヴァルディードは愉快そうに笑う。
「さて、焼き加減のお好みはレア? ウェルダンか?」
「はは……いくらなんでもそれは無理だの?」
「さあ、どこまで耐えられるかな! インフェルヌス・ハスタ!」
その言葉と共に凄まじい炎の槍がヴェルキアに向かって解き放たれる。
それと同時に轟音が鳴り響き、古城の跡地が大きく揺れる。
「ぐぅうううあああ!!」
ヴェルキアは両手を前に突き出して必死に耐える。
しかし、その炎槍の勢いは一向に衰えず、じりじりと後退させられる。
「はは、頑張るではないか! そら、もっと魔力を込めねば黒焦げになるぞ?」
愉しそうに笑いながら言うヴァルディード。
ヴェルキアは歯を食いしばりながら耐えるが、両手からはもはや感覚が失われつつあった。
そして、槍の勢いに耐えきれず、ヴェルキアの腕は弾き飛ばされる。
瞬間、この世のものとは思えぬ熱が全身を焼く。
声にならない悲鳴を上げながら、ヴェルキアは遥か彼方へと吹き飛ばされていった。
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