第07話 19時20分 警察署

 警察署に戻った鶴嘴つるはしは休憩室へと足を向ける。

 ドアを開くと取調室にも負けない豪華なインテリアが上品に並ぶ休憩室。

 そこに1人の男が座っていた。


「戻りました。苺谷のホテル手配完了~っす」


「お~鶴嘴つるはしくんご苦労さん! 決まりとは言え、何度もホテルまで往復させてすまないな」


 老練な匂いを感じさせる口髭を蓄えた男が、鶴嘴つるはしへ労いの声を掛ける。


「いやいや! これはこれでおもしろいっすよ。 団亀どんがめさんのほうはどうでした?」


「ああ、こっちも大方終わったな。『栗美くりみ』のほうはすんなり罪を認めて出演決定。そして2級の放置罪の『梨藤りとう』は、10級の吊上罪も追加になったな」


 放置罪ほうちざいとは死体を発見したにも関わらず通報を怠った罪である。

 保護責任者かどうかは問われることなく、誰しもに課せられた義務となったが、無関係だからとその場を立ち去る者が多い。

 吊上罪ちょうじょうざいは、意図的に多数で個人を糾弾するように誘導した場合の罪である。

 SNS等で人気を誇る者が犯しやすい罪でもある。


「まぁ無関係な死体なんて関わりたくないっすからね。同情はしますが、吊上罪も加わったってことは……」


「ああ。お察しの通りだよ。梨藤の囲い……フォロワーっていうのか? そこらへんを扇動した結果だよ。殺人に関与していないかが焦点だったが、残念ながらフォロワーどもの勝手な暴走の結果だなぁ」


 鶴嘴つるはしがソファーに腰かけると、団亀どんがめが急須で注いだお茶を差し出した。


「いただきます。もうフォロワーってか狂信者っすよね……そこらへんは別のゲームに回すんすかね?」


「そうなるなぁ~復讐者アベンジャーじゃないと指定した者がいるゲームには参加できないからなぁ。犯罪者でも復讐者アベンジャーにはなれるから仲間割れでもして誰かに復讐とかするならゲームは一緒になるが……まぁいい。それと『柚子木ゆずき』のほうは2級の傷害罪と3級の暴行罪の合わせ技で1級犯罪に見事昇格だ」


 犯罪等級は犯した罪の積み立て式となっている。

 この単純な積み立て方式により犯罪者の懲役年数が考えられないほどに伸びているのが現状である。


「傷害と暴行は区別付きにくいし、めんどくさいから両方付けちゃうのが楽でいいっすよね。もう脅迫罪を暴行罪に含めたんですから、こっちも一緒にすればいいと思うんですけどねぇ……あ、あとそういえば『桃瀬ももせ』の放火罪の件はどうなりました?」


「ああ、それも処理済だ。10級犯罪だけどあいつ運がないよなぁ……ネットで炎上しすぎて懲役年数が10万年超えてたからなぁ……」


 この2人が言う『放火』とは家屋等を燃やしたものではない。

 いわゆるネットでの炎上を指している。

 承認欲求に歯止めがかからない現状にAIが打ち出した法であり、炎上狙いのSNSでの書き込み、配信での発言等が対象となる。


 そして10級犯罪に該当するものに共通する事項として、基本罰則は懲役1年である。

 だが、10級犯罪は懲役を決める際にAI裁判所から国民向けにアンケートが発信されるのだ。

 無視しても罪に問われることはないが、このアンケートで『不快』に票が入ると1人に付き1年刑期が伸びることになる。

 この桃瀬の件で言うなら、不快と答えたものが10万人以上いたということだ。


「まぁでもこれで10人超えたからPriTubeプリチューブで配信ができるってことっすよね」


「そうだな。今回は結構うちで逮捕したやつも出るから期待したい所だなぁ……」

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