第2話 病みつきに

 アクゼちゃんのファンになったボクは、あの日からライブ配信がされる日は毎日欠かすことなく見るようになった。

 そんなボクはある小学校の教師をしている。

 小学生たちの話題がテレビからネットへ変更されて当たり前になった昨今。話の内容に耳を傾けていると、最近は冒険者として活躍している人たちの話題が多くなった。


「先生は、冒険者より偉いの?」


 そんな風にボクへ問いかけてくる生徒がいることも仕方ない。

 彼にとって冒険者は英雄であり、将来なりたい職業ランキング第一位に選ばれているぐらいだ。ほとんどの子が憧れている。

 ちなみに学校の先生は、ランキング外なので順位はわからない。


「どちらが偉いなんてないんだよ。お金を稼ぐ仕事は大変なことだからね」


 ボクは別に冒険者も、教師も、どっちも素晴らしい職業だと思っている。

 教師は公務員なので、副業を許されていない。

 許されていたなら冒険者業をしてみたいという気持ちすらある。


「冒険者の人たちは、魔物と戦ってエネルギーを需給してくれているんだ。近年のエネルギーは核に頼らないために、魔石燃料を使っているんだよ」


 新たなエネルギーとして、ダンジョンから取れる魔石と呼ばれる鉱石が使われている。魔石の中には未知の力である魔力が内包されていて、それをエネルギーに変える研究が成功したのだ。

 魔石は消費すると石になり、自然環境にも良いと言われている。地球を汚さないでエネルギー問題を解決できたことは喜ばしいことだ。


「ボクら教師は、君たち子供を正しい道へ導くために、勉強と正しさを教えているんだ」


 ボクは少し前に見たばかりのアクゼちゃんの言葉を思い出してしまう。

 動画配信者になりたい子も、冒険者になりたい子も憧れることは間違っていない。いつの時代も憧れや夢を持つことは大切だからね。

 だけど、人には大変だけど見えていない仕事がたくさんあって、先生もその一つなのかもしれない。


 子供達は言うことを聞いてくれない。

 その親たちは先生を尊敬していない。

 社会的には教師など、子供を見ているだけの存在程度にしか認識されていない。


 この間、ラジオを聞いていると、里親制度を訴える理事をされている方と、ラジオのパーソナリティーさんが、新人の先生に私の子を見させないで欲しい。というコメントをしていた。

 ボクは四年目で現場では新人扱いだ。それを聞いた時に一瞬悲しくなったのを覚えている。どの現場も人が不足して大変な世の中だ。

 親も仕事があって大変なのはわかるが、先生のことを下に見て、馬鹿にしているのに求める仕事内容はハードになっていく。


 誰もが最初は新人で、経験を積んで成長していくものだ。一年目であれ、五年目であれ、向き不向きもあれば、出来る出来ないも存在する。

 新人だと一まとめにして話をするのはやめてほしいと思ってしまった。


 先生は、本当に難しい。

 指導する子供が言うことを聞かないのに。

 それを育てる先生を指導するなんて、本当に大変で。

 新人教育だって疎かにしているわけじゃない。それでも圧倒的に時間が足りない。


 朝は、学生よりも早く出勤をして、授業の書類をまとめ、各季節事のイベントの下見や、部活動の調整。

 他の先生との連携など仕事は多岐にわたって行っている。それもこれも自分の子よりも他人の子のためにだ。


 その上で、新人にやらせるなと言われれば、新人はなんのために教師になったのかわからない。

 他の先生たちにもどれだけの仕事を押しつけてくるんだよと言いたい。


「え〜、でも先生は危なくないじゃん」


 ふと、自分の世界で愚痴をこぼしていると、生徒に危なくないと言われた。

 実際、命の危険はないかもしれない。

 だけど、目の前の子供達を間違った大人には育てたくないと言う気持ちはある。

 勉強を教え、道理を教える程度には育ててあげたい。

 そうしなければ社会で生きていくことが難しくなってしまうのだ。


「そうだね。危なくないね。だけど、誰も社会の生き方を教えてくれない世の中になってしまうと、君たちは何が正しくて、何がダメなのかわからないまま成長することになってしまうんだ」

「ええ〜わかんない」

「そうだね。ただ、どっちが偉いかではなくて、どっちも偉いと覚えておいてほしいってことだよ」

「絶対冒険者の方が偉いと思うけどな」


 その生徒は、冒険者に憧れているのだろう。

 いつの時代も人気職業というものは誰もがなりたいと憧れる。

 少し前であれば、動画配信者が人気一位だった。

 夢を追うために努力するのは悪いことではないと思う。応援してあげたい。

 だけど、アクゼちゃんが言うように他の職業を尊敬できない子には育ってほしくない。

 仕事は大変なことだと知って、人を支えられる心を持った子に成長してほしい。


 僕は子供を叱るのではなく、彼の意見を尊重しながら、間違わないように成長を促してあげたい。


「本日もやっていくよ〜そうだ。決まり文句だから言っておくね。私は遠慮なんてしない。だから、嫌ならどっか行って。ここでは私が神だから。いいね?」


 配信が始まるのを心待ちにしてしまっていた。

 だいたい22時前後に始めてくれるのはありがたい。

 残業などで、いつも帰って来れるのはこの時間になってしまうんだ。


「今日はっと、あん? 学校の先生と、冒険者はどっちが偉いですか? これを送ってきたやつはマジでバカなの? それとも成長が遅いお子ちゃまってこと?」


 コメント欄からは、冒険者の方だろというコメントが多い。

 送ったのはボクではない。本日、問いかけてきた生徒と重ねてしまう。

 アクゼちゃんが、なんて言うのか聞きたくなってしまう。小学生が見ているはずがないのに、ふと自分に言われているように感じた。


「そんなの学校の先生に決まってるじゃん。理由? 私は絶対にやりたくない仕事だからだよ。先生なんて全ストレスを受け止める仕事でしょ? 

 全方位から文句を言われてさ。それでも丸く収めようと努力して、理不尽なガキどもの相手をしなくちゃいけないわけよ。その上で、子供以上にうるさい親の相手をしなくちゃいけないんだよ最悪じゃない?」


 子供の心配をする親は当たり前だろというコメントが流れる。


「はぁ、あんたらはさ。会社の上司からの嫌味を言われたことないの? 全方位から圧力があって、それでも子供のために勉強だけじゃなくて、遠足に体育、道徳や社会なんていう。生きるために必要な道理を教える仕事をするんだよ? できんの?」


 あれ? おかしいな。画面が滲んできたや。


「スゲー仕事だと思うけどね。学校で上手く出来ないやつは、社会に出てもだいたいダメになるやつ多いじゃん。冒険者なんてその最たる者じゃね? 社会では生きていけない人がさ。個人プレイしかできなくて、冒険者になるの。だけど、冒険者でも成功している人はやっぱりチームで動けて、相手の心が考えられる人が多いわけ。陰キャが成功するとか物語だけだから現実見ろって」


 今の毒舌は、コメント欄の男たちの胸を突き刺した。


「野球選手だって個人の能力も大切だけどチームでプレイするから連携取れてないとダメじゃん。サッカーでもそうでしょ? スポーツはそう言うこと教えてくれるよね? でも、最初に教えてくれたのって学校の先生だと思うんだよね」


 僕は、教師を選んで間違っていなかったのかな?


「冒険者として成功できる人たちも、学校の先生が最初の基礎を教えてくれたからできるわけよ。だから、偉いのは学校の先生。ストレス抱えて、言うこと聞かないガキを導いて、そら頭がおかしくなる先生も出て来るけどさ。ストレス半端ないよ。でも、その仕事をやろうと思ったことが凄いと思うよ」


 画面を見れない。


「冒険者は、自己責任でいいじゃん。気楽でしょって話。魔物を倒すのは危険だろって? 当たり前でしょ。仕事なんだよ。大変なことがある決まってんじゃん。ラクして稼げるなら誰だって冒険者をやるっての。冒険者は危険なことをする仕事だよ。それが当たり前。それでも教師がストレス抱えるより全然マシだけどね。冒険者は、危険以外は、準備していけばいいし。自分の実力にあって場所に挑戦すればいい。つまり、危険以外は気楽で何が悪いんだって話」


 コメントに対して即座に毒を吐く。

 そんな彼女に笑ってしまう。


「先生は大勢のガキどもの未来を背負うんだよ。そんな仕事を選んだだけでもその人は偉いって話よ。それがわからないから、こんな質問送ってきたんだろけど。もっと賢くなって人の気持ちがわかるようになれよ。以上」


 ボクはいいねボタンを押していた。


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あとがき


どうも作者のイコです。


1話目にして応援ありがとうございます!!!感謝です(๑>◡<๑)

早速のレビュー、いいね、コメントめっちゃ嬉しいです。

是非是非これからもお願いします!!!


中編コンテスト、1日目順位は17位スタートでした(๑>◡<๑)

ありがとうございます!!!

 


 

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