第6話 心を砕く噂

 謝ろうと送ったメールは、送信先エラーで戻ってきてしまった。

 恐る恐る、彼にコールをしてみと、通話中の音……。

 一度で十分だった。

 何度も確かめる必要などないと悟った。


 縁を切られたのだ。


 何の関わりもなかったかのように、彼の中で私という存在は、知人としてさえも存在することが許されなかったんだ。

 さようならさえ、言わせてもらうことのできなかった終わりに、私は消化不良を起こしたまま、泣くこともできずにいる。

 ただ、流されるままに毎日を淡々と過ごしているうちに、ある噂が私の耳に届いた。


「あんた、ストーカーになりそうな女だって言われてるよ?」


 そう教えてくれたのは、彼との共通の友人で、元々は私だけの友人だった。

 どういうことか詳しく聞かせてもらうと、どうやら彼は


「新しい彼女ができたけれど、自分の部屋も知られているし、連絡先も知られている。ストーカーされたら、彼女に迷惑がかかるから困っている」


 そんなことを言っているそうだ。

 私はただ、愕然とするしかなかった。

 ストーカーしそう……そんな目で見られていようなどと、夢にさえ思わなかった。


 それは私の心を、今度こそ完全に打ち砕くのには充分過ぎる仕打ちで、そのとき初めて私は泣いた。

 どうしようもなく悲しくて、悔しくて、それでもまだ、彼を愛していることが切なくて、ただ、泣いた。


 まず、眠れなくなった。食欲がなくなった。

 それでも生きて行かなければいけない。

 仕事もある。

 私はただ、必死に毎日を過ごすことで、自分の体とどうにか折り合いをつけた。

 心のほうは、もういっそ、このままひっそりと彼を思い続け、最後のときを迎えるまで、一人のままでいい、そう考えることで折り合いをつけた。


 実際、何年もずっと彼だけを見つめ続けてきた私が、今さら他の誰かに目を向けることなど、無理だ。

 おかしな噂のほうは、彼との共通の友人に近づかないことでやり過ごすと決めた。


 人の噂も七十五日……。

 いずれみんな、私のことなど忘れてしまう……。

 そして気づけば、七十五日どころか、半年以上が過ぎていた。

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