第4話 四角く切り取られた空

 週末は仕事が終わると、いつも彼の部屋へと向かった。

 そして週明けにはそのまま出社する……。

 それが私の日常だった。


 どこへ行くでもなく、特に何をするでもなく、時折、外へ出るときは買い物程度。外食や映画を見に行くときもいつも夜。

 それ以外はただ二人、部屋の中でまどろむだけの日々……。


 それでも私は満たされていた。小さな空間の中で確かにそのときだけは、彼は私のものだった。

 朝も昼も夜も、彼の下で薄らと目を開いたときに、頭上に見えた切り取られた四角い空間。

 それは時に青く時に暗く、陽が射すときも月が満ちたときも、星が瞬くときにも、いつでも私の頭の上に――。


「ねぇ、夏休みは何日取れる?」


 ある夏の日、彼の問いかけに意味が分からず首をかしげた。


「夏はそんなに忙しくないし……週末を組み入れれば一週間かな?」


 これまで私の休みなど特に興味を持つこともなく、翌日が仕事であろうがそうでなかろうが、思うままに私を呼び出すのが彼のパターン。

 それが、どうして急に?


「――旅行に行こうよ」


 冷房の効き過ぎる部屋で布団の中の温もりに包まれて、突然の申し出に私は彼の顔を見上げた。

 嬉しくないはずがない。それは私には無縁のもので、彼にとっては他の誰かとなすべきことだから……。

 うつ伏せになり、枕もとに雑誌を引き寄せ、子供のように目を輝かせて行き先を説明する彼に、私はただ黙って頷くだけだった。

 言われた通り、その週の内に私は夏休みの日程を決めた。


 そして当日――。

 私はいつもと何も変わることなく、彼の部屋で過ごした。


 旅行に行こう、そんな一言で舞い上がってしまっていた。

 すっかり忘れていた。

 ここにいて、彼のそばにいて、私との約束が果たされることなど、皆無に近いんだということを。


 私の呼ばれない日に来る誰かのために、私はこの部屋に私の痕跡を残さないよう掃除をし、一人自分の部屋で過ごすときにはただ彼からの連絡を待つ。

 それでいいと、それでもいいからと、添うだけにしておけば良かったのに、つい欲をかいてしまった、これは罰だ。

 彼の重みを感じながら、私はまた四角い空をあおぐ。

 理不尽さも自分の感情も何もかもを封じ込めるように、目を閉じた。

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