第226話

 何度も連絡先を、写真も、消そうとした。

 もらったぬいぐるみや授業中にやり取りした手紙も、捨てようとした。

 でも、できなかった。


 あゆらは志鬼を信じていた。

 人生で最も輝いていたあの半年間、志鬼は毎日のようにあゆらにしつこいほど愛情を注いだ。

 あの情熱がその場凌ぎだとはどうしても思えず、いつかまた突然目の前に現れるのではと、期待を捨てきれずにいた。


 その時、なんとなくかけていたテレビからあるニュースが流れた。


『指定暴力団、野間口組の幹部が抗争で死傷し』

「——志鬼っ……!?」


 あゆらは咄嗟に画面にかぶりついた。

 しかし、そこに表示されたのは知った名前ではなかった。


「よ、よかっ、た……」


 あゆらは安堵の息を漏らすと同時に、改めて自分の気持ちを思い知らされ、ハッとした。


「そう……私、こんなに離れても、こんなに時間が経っても、志鬼、なのね」


 あゆらはついに、根を上げた。

 もう、我慢の限界だった。

 強く握りしめた手を、勢いよく天に振り上げた。


「……よーし! こうなったらもう、私から会いに行ってやるわ! 私のこと、忘れてたりしたら……ほ、他に女の人作ってたりしたら、許さないんだからね!」


 あゆらは知らなかった。そう意思を固めた今日という日が、志鬼が言っていたちょうど“五年後”だったということを。



 ——ピンポーン

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