第184話

「……なんや、気になって来たけど、ちゃっかり青春謳歌してるやないっすか!」

「お前に心配されたらおしまいやわ」

「でもいきなり知らん土地に飛ばされて、一人暮らしやし、三年前の嫌なこと思い出したりせんかなって……」


 志鬼の顔がやや険しくなり、その緊張感はあゆらにも伝わる。

 空気が変わったのを感じ取った虎徹は、あっ、と小さく声を出した。


「すんません、俺、いらんこと……」

「……いや、ええ。ちょうど話そうと思ってたところや。……虎徹、ちょっと外で待っといてくれるか、せっかく来たんやし飯くらい一緒に食うやろ」

「は、はい! 了解っす!」


 志鬼に促され、虎徹は背中を丸めながらドアを開け、外に出た。


 カチャリ、とドアが閉まる音が聞こえた後、数秒、あゆらと志鬼の間に静かな空気が流れた。


 二人はまっすぐに前を見ていた。

 あゆらは志鬼が話し始めるのを待っていた。

 やがて志鬼はそれに応えるように、重い口を開いた。


「……全然面白くない話やけど、聞く?」

「……ええ、志鬼のことならなんだって知りたいわ」


 そう言って優しく手を繋ぐあゆらのそれを、志鬼はほんの少し強く握り返した。

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