第134話

 あゆらは長い髪を高い位置でおだんごにまとめ、耳横にカールをした後れ毛を垂らしていた。

 白いレースの涼しげなボレロに、サーモンピンクの光沢あるワンピース、控えめにラメが散りばめられたベージュのストッキングに、大人っぽいパンプス。アクセサリーもすべて入れれば数百万は下らない正装であるが、あゆらはまだ高校二年生だというのに、それを着こなすだけの気品と美しさがあった。

 どこから見ても文句なしに良家の御令嬢である。


 あゆらは幸蔵や杏奈とともにリムジンに乗り、流されるまま目的地に辿り着く。


 国内有数の大規模なホテルの前に車が留まると、運転手が扉を開け、幸蔵、杏奈、あゆらの順に降りてロビーで受付を済ませる。

 あゆらはいったん幸蔵と別れ、杏奈に誘われたパーティー会場へと足を踏み入れた。

 まるで結婚式の披露宴のように、豪華に飾られた室内に、来客は皆めかし込んでいる。


 とりあえず顔を出せば父は納得するだろうと、適当に時間をやり過ごせばよいと思って訪れたあゆらだったが、会場に入った瞬間、違和感を覚える。

 あゆらを見た途端、出席客たちがこぞってあゆらの元に近づいてはお祝いの挨拶をしてくるのである。


「あゆらさん、この度はおめでとう」

「素敵な日にお声がけいただけて嬉しいわ」

「あゆらさんのウエディングドレス姿、驚くほど綺麗でしょうね」


 由緒正しい裕福な家系のマダムたちが口々にする言葉に、あゆらは戸惑いながら愛想笑いを浮かべるだけだった。

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