第110話

 ——志鬼は女性慣れしているのだろうか?

 露出の多い女性がいてもまったく取り乱さない志鬼を見ると、いかがわしい店にも行ったことがあるのだろうか、女性経験も豊富なのだろうか、ならば恋人も何度かいたことがあるのだろうか、など……一度考え出すと気になって気になって、あゆらの負の思考が暴走する。

 

 しかし、ここで離れるわけにはいかないと、あゆらは気持ちを奮い立たせダイニングテーブル前に座った志鬼の右隣に腰を下ろした。反対側には先ほどの彼女がいる。


「その人、連れ? なんか超大人しそうなんだけど、服装似てるけど人種違わない? 気合わなさそうだね」


 自分が気にしていることをズバズバ言われ、あゆらは思わず帽子を深く被り直した。

 『あんたみたいに甘やかされて育った人間、志鬼と釣り合うはずがない』

 ——そう、言われているようで、あゆらは悔しく、そして悲しかった。

 

「そうでもないで、人は見かけによらんもんや……まあ、大概は見たままやけどな」

「見た目通りの方がまだ親切だよ、厄介なのはいい人ぶって中身が最低な奴。あたしのことはアリスでいいよ」


 栗色に染めたボブヘアーのアリスは、テーブル越しにいる一人のバーテンダーに手を出すとタバコとライターを受け取った。

 互いに長い間ここで働いているのだろうか、無言でも会話が成立しているようだった。


「お兄さんも吸う?」

「ああ、もらうわ」


 アリスにタバコを勧められると、志鬼はそれを当然のように受け取った。

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