第21話
あゆらの前回のテスト結果は学年三位だった。それでも十分優秀と言えるが、学生時代常に全国トップクラスの成績を誇っていた幸蔵にとっては不出来だった。
「も、申し訳ありません、次は必ず」
『ふん、言い訳だけは一人前だ、悪いところは全部母親似だな』
吐き捨てるように言い放たれ、通信は途切れた。
無音になったスマートフォンをドレッサーのテーブルに置くと、その鏡に映った自身の姿を見て、あゆらは消えてしまいたくなった。
怯えきった情けない顔。何を言われても、言い返せずに顔色を窺うようなへりくだった話し方、何度もどもる口。
「……本当、お母様にそっくり」
あゆらは自嘲するように引きつった笑みを見せた。
相談するどころか、話すらさせてもらえなかった現実。どこか父に期待をしていた自分の甘さが悲しかった。
「……明日、先生に相談してみようかしら。それでもダメなら、美鈴に直接、話をするしか……ああ、ダメだわ、今日はもう、休みましょう……」
一日にいろんなことが起こりすぎて、頭がパンクしそうだったあゆらは、とりあえず眠ろうと柔らかなベッドに横たわった。
そうして目を閉じた先に思い出されたのは、清志郎の奇行…………ではなかった。
色鮮やかな金の髪。
独特な風貌に、耳に残る低い声。
軽快な身のこなしで悪人から助け出してくれた、あの彼の姿が絶え間なく脳内で再生を繰り返す。
——名前くらい聞いておけばよかった。もっと言うなら、勇気を出して連絡先を聞いていれば……と頬を熱くしている自分に気づいたあゆらは、ハッとして頭から布団を被った。
――私ったら、美鈴が大変な時にこんなこと、どれだけ薄情なのよ……彼のことは忘れましょう、きっともう、二度と会うこともないでしょうし……。
切ない胸を抱えながら、疲れきったあゆらは夢の世界へ落ちていった。
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