第8話

 放課後になると、広々とした美術室には女生徒たちが集まっていた。

 人型の彫刻や洋風の壺など、芸術的なものがところ狭しと並ぶ中、あゆらの描いた絵は大きな金色の額縁にはめられ、前方に位置する白い壁に堂々と飾られていた。


 そのキャンパスにいたのは、天使を抱く女神だった。

 白と金色が混ざり合ったような神々しい光を浴びた女神は腕の中にいる天使を慈しむ目で見ており、その天使は指しゃぶりをしながら安心して女神に身を任せ眠っていた。

 一目ひとめで親子の信頼関係が伝わる、温かさと優しさに満ちた絵画だったが、まだ人の醜い部分を知らないからこそ描けた絵とも言える。


「ああ、素晴らしいですわね、これなら受賞も当然ですわ」

「わたくしも絵に興味がありますの、ぜひあゆらさんにご指導いただきたいですわ」

「皆さんどうもありがとう。私で力になれるならいくらでも」


 自身の絵を見つめながら絶賛の声を口にする女生徒たちに、あゆらは得意げに微笑んだ。

 その時ふと、あゆらはあることを思い出しスカートのポケットを探った。

 

「あ……嫌だわ、私、音楽の先生にボールペンを返すのを忘れていたわ」

「あら、それは一大事ですわね」


 筋金入りのお嬢様たちにとっては、うやまうべき教師からボールペンを借りたままになったことすら一大事のようだった。


「私、返してくるわね、皆さんは自由にしていて、すぐに戻るわ」

「行ってらっしゃいませ、あゆらさん、お気をつけて」


 皆に見送られ、あゆらは音楽の授業の際に教師から借りたボールペンを返しに美術室を後にした。

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