第59話 三島が俺の家に来ました
「――随分と沢山お土産を持って帰るんですね」
両手に月島の和菓子が詰まった袋を持つ俺を、三島は嫌みったらしく言う。
「文句ならお前のお母様に言ってくれ。沢山持たせたのも、新作を食べて感想を教えて欲しいと言ったのもお前のお母様だ」
「きっと気に入られたんでしょうね。良いお客様だと思ったんじゃないでしょうか」
すでにご両親とお別れをした後に、三島の家の前でそんな会話を繰り広げていた。
「貴方のおウチはどこにあるんですか?」
「あぁ、海沿いの方だ。ここから歩いて15分くらいだな」
「なんだ、近いですね。じゃあ一緒に歩いて送っていってあげますよ」
「近いと言ったって、15分歩くんだぞ? 結構大変じゃないか?」
「貴方が私の家の場所を知っているのに、私が貴方の家の場所を知らないのは不利じゃないですか」
「不利ってなんだよ。戦争でもすんのか」
そう言って、三島は俺が左手に持っているお菓子の袋を半分持ってくれた。
口は悪いけど根は良い奴なんだよなぁ。
まぁ、ゲーマーはみんな口が悪いから(偏見)。
「ありが――」
「いちいち感謝しなくて良いですよ。それに私も時間を潰してから帰りたいんです。アイドルになるって言ってからお父さんが色紙とペンを持って追いかけまわしてくるので。しばらく時間を置いて粗熱を取っておきます」
「お菓子作りみたいな方法で父親を扱うなよ。三島のお父さん、怖い感じの人かと思ってたけど凄く良い人だったな」
俺の家に向かって歩き始めながら三島と会話を始めた。
「……私も勘違いしてました。今でこそ立派に銀行の役員を務めていますが、お母さんと結婚した頃は身分の違いで周囲の反対も強く。お母さんの両親を認めさせる為に偉ぶっていただけらしいですよ」
「その姿を見て、三島も厳格な父親だと勘違いしてアイドルは反対されると思っていたんだな」
「はい。正直、貴方のせいにしないと言い出すこともできませんでした。まぁ、アイドルになるキッカケをくれた『X』に感謝ですね。これを機に私もお父さんといっぱい話そうと思います」
三島にそう言われて、思い出した。
「そうだ、三島はちゃんと探星高校に合格したんだから。約束通り、『X』に会わせてやらないとな」
俺がそう言うと、三島は大きなため息を吐いた。
「別に良いですよ。最終試験の時に学園長が言っていたじゃないですか。私があのまま普通に踊っていたら落としていたって。つまり、屈辱的ではありますが合格できたのは貴方のおかげなんです。賭けは私の負けですよ」
三島は人差し指をフリフリと動かしながら続けて語る。
「そもそも、『X』に会えるはずなんてないですからね。貴方に『X』と書かれた紙を見せられたり、『X』と名付けた猫を見せられたりするくらいなら……猫はぜひ見せてください」
「勝手に何言ってんだ。まぁ、飼ってるけどよ」
三島は俺が『X』に会わせることができるとは全く信じていないようだった。
まぁ、当然だけど。
すでに話題は猫に移っている。
そんな話をしながら俺の家まであと少しというところまでくると、急に雲行きが悪くなりゴロゴロと曇天が鳴り出した。
「――今、猫が甘えている時の音が聞こえませんでした?」
「残念ながらゴロゴロ言ってるのは猫じゃなくて空だ……こりゃまずいぞ」
そして予想通り、バケツをひっくり返したような大雨が降ってきた。
「ちょ、ちょっと! 何ですかこの雨はー!?」
「あ~、こりゃもう走っても無駄だな。全身ずぶ濡れ。あと少しで俺んちだったのに」
そう言いつつ、俺と三島はとりあえず俺の家の前にまで来た。
もう無駄だと分かっていても玄関の軒下で雨を払う。
「あ~もう! ビショビショです!」
「見事に降られたな」
「……これが貴方の家ですか? 結構、立派な一軒家ですね」
「お前の家と比べると犬小屋みたいなモンだ。俺の家の乾燥機の速乾コースなら三島の服も30分で乾くから、雨宿りがてら上がっていけ。これだけ降るならそう長くは続かないだろ」
俺が提案すると、三島は両手で自分の身体を守るようにして覆い隠し、俺を睨む。
「な、なんて自然な誘い……。私に変態の家に自ら入れと言うのですか? しかも服を脱ぐように要求するなんて! もしかしてこれを狙って雨を降らせました?」
「大掛かりすぎるだろ。……三言お嬢様が風邪を召されたら、俺がお父様によって日本刀のサビにされるのでお願いします」
なぜか俺がお願いするという逆転現象が起こっていた。
三島は困り顔でうつむく。
「でもそんな……悪いですよ。先にシャワーを浴びさせてもらって、代えの服を着て、温かいコーヒーを飲みながら、雨宿りさせてもらうなんて」
「滅茶苦茶要求してるじゃねぇか。まぁ、別に良いけど。ほら、風邪ひく前に早く」
俺が玄関の扉を開くも、三島は少し顔を赤らめてまだ躊躇している。
「で、でも、やっぱり心の準備が……いえ、私は男の子の家に行くのなんてもう慣れたモノなのですけど」
すでに友達が一人も居ないボッチであることがバレている三島だが、まだそんな強がりを言っていた。
絶対に初めてだろ、コイツ。
ため息を吐きつつ、俺はトドメの一言を言う。
「猫とも遊べるぞ」
「お邪魔します」
チョロすぎる三島は俺に続いて家の中に入っていった。
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