第4話 奇跡が起こる

 

「ふざけんな~!」

淳史あつし出せ~!」

「ちゃんと説明しろ~!」


 メンバーたちの謝罪もむなしく、会場は悪い意味で温まっていた。

 詳しい情報もまだ言えない今、それも仕方がないことだ。


「もう、メイクは終わりなんですか? でも、確かに時間もなさそうですしね……」


「いや、というかメイクをする必要がないんだよね……」


「……はぁ」


 よく分からないことを言うメイクさんたちによる準備を終えた俺はマイクを持ってステージへ。


 怪我をしたメンバーの淳史あつしの代役である俺にスポットライトが集まる。


 これで良い、何よりも俺という『シャーロット』の不純物を目立たせることが大切だ。

 そうすれば観客の不満も俺に集まる。

 俺の顔が背後に大型モニターに映されると、観客たちの怒号がピタリと止んだ。


 メンバーたちは俺を見て、目を丸くしていた。

 無理もない、謝罪はいつも俺任せ。

 こんなに大勢の怒りに満ちた人間の前で頭を下げるだなんて縁遠い体験だろう。


 長年マネージャーとして数々のクレーム処理を経験してきた俺は丁寧な謝罪を心掛けつつ、深々と頭を下げる。


「ご来場のみなさま、本日は大変お暑い中足を運んでいただき誠にありがとうございます。今回はこのような形になり、大変申し訳ございません。お近くのスタッフにお申し付けいただければ、チケットの返金も対応いたしますのでそのままご退場いただいて結構です。後日、ご住所から運賃も計算してお支払いさせていただきます」


 まずは、今回の対応だ。

 大赤字になるであろうことは確実だが、また俺がなんとか補填すれば良い。


「……ですが、もしご納得いただけるのであれば精一杯パフォーマンスをさせていただきますので。観て行っていただけますと幸いです。どうかよろしくお願いいたします!」


 メンバー全員で頭を下げる。


 ――すると、奇跡が起こった。


 あれだけ怒りに満ちていた会場の雰囲気にも関わらず、今は誰一人として席を立とうとしない。


「で、では……始めさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 十分に時間を取ったが、誰も席を立たずむしろ俺らを映し出しているモニターに釘付けになっているようだった。


 流石は『シャーロット』だ、俺は彼らの人気を過小評価していたのかもしれない。

 ファンたちは、こんなにもに夢中だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る