朝が来るまでに雨はやむかもしれない

香坂 壱霧

第一話 夜中の雨、そして追憶

 屋根に大豆をばら撒かれたような、激しい雨音が聞こえ始めた。しばらくすると、雨樋あまどいから溢れ出た雨水が、地面に叩きつけられているのが聞こえる。大きな水溜りを作り始めたようで、不協和音を変則的に奏でているようだった。

 こんな突然の雨──特に夜中の場合──は、心身がひどく疲弊する。

「痛い」

 身体の痛みやフラッシュバックに夜心の痛みが、堪えきれず言葉で吐き出すしかなくなるのだ。

「苦しい」

 誰も居ないから、泣き喚いても問題ないのだけど、体力を消耗するのが分かっているから、呟くのみ。

「会いたい」

 そう呟くと、涙が滲む。

 会えないんだから、虚しくなる呟きは後悔しかない。

 早くやんでほしい。

 そう願いながら、目を閉じる。


『強がってんなあ。我慢しなくていいだろ。痛いなら我慢せず、吐き出せよ。俺しか聞いてないからさ』


 二度と聞けないだろう言葉が、彼の声で脳内再生され、涙は頬をつたい始めた。

 朝までやみそうもないのなら、少し、思い出にひたろうか。身体の痛みくらいは、忘れるかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る