第92話 佐渡家

 佐渡呉斗は理伝村を守る陰陽師家系、佐渡家に生まれた。村は比較的平和で、村を守るのは佐渡家のみ。

 村人との関係も良好で、呉斗は皆に好かれ守る父を尊敬していた。将来は自分も同じように佐渡家を継ぎ理伝村を守るものだと、考えていた。才能もあった呉斗は十五で陰陽師になり、二十二歳の頃には三級に。

 呉斗と雪乃は幼馴染で、幼い頃からずっと仲良く過ごしていた。だが、雪乃は普通の人間ではなく、雪女であった。


 現代日本は人間に友好的な一部の妖怪は、所定に手続を踏むことで、戸籍をとることができる。人間よりも権利は制限されているものの、学校に通うことも可能だ。

 だが、現実的に戸籍をとることができる妖怪は非常にまれである。安全であることの証明、友好的であることの証明は難しい。

 だが、雪女など人間型の姿をした妖怪は比較的取りやすい。


 それは彼女達に魅入られた男達の過去の努力があったからだ。

 呉斗は雪乃と付き合っていた。陰陽師と雪女という奇妙な組み合わせなので、あまり応援されていなかったが、二人はそんなこと気にせず仲睦まじく過ごしていた。

 その時呉斗はこのような日々がずっと続くとただ信じていた。


 だが、その平穏な日々は突然終わりを告げる。

 呉斗は突然彼女に襲われる。それは殺意のこもった一撃だった。突然の出来事に、呉斗は全く理解が追い付かなかった。なぜ襲われたのか。

 ただ呉斗を襲う雪乃の瞳は、涙で潤んでいた。


「お前等、佐渡家が妹を売ったんだ! 自らの地位のために! 人間は所詮私達を道具としか見ていなかったんだ!」


 雪乃はまるで仇を見るかのような顔で呉斗を睨みつけた。

 呉斗には全く心当たりはない。妹とは何度も会ってますし、売るはずがない。


「そんなことをする訳がないだろう! 何かの間違いだ。一緒に妹さんを探そう」


 呉斗は何かの間違いだと思い、雪乃を説得しようと努めた。

 だが、その言葉は雪乃には届かなかった。


「佐渡家の人間に連れされられたのを目撃したんだ! あれはお前の父だった!」


 雪乃は叫ぶと、手から氷柱を生み出し呉斗に襲い掛かる。


「父がそんなことをする訳がない! 頼む、話を聞いてくれ。一緒に探そう!」


「この嘘つきが……! お前達、佐渡家が人を、妹を妖怪に売ったんだ!」


 まるで吹雪のような猛攻が呉斗を襲った。

 呉斗は混乱していた。


(父がそんなことをする訳がない。だが、彼女が嘘を吐くはずがないと、一緒に居た私が一番わかっている!)


 雪乃は雪女であり、四級上位程度の実力があった。ただひたすらに猛攻を躱し続けることは周囲の被害からも、許容できなかった。

 結局呉斗は雪乃に一撃を入れ、気絶させた。

 呉斗は雪乃を家に送り届けた後、父を探し始めた。


 呉斗は父が子供を連れ去るなどありえないと、何か誤解があったのではと考えたからだ。父なら雪乃の妹の行方を知っているかもしれないと。

 だが、家に帰っても父は居ない。

 呉斗は村人に尋ね、父が山に向かったという情報を突き止める。


 呉斗は山へ入り、父を捜索し始めた。そして遂に呉斗は山の洞で父を見つけ出した。

 そこには、呉斗の想像をはるかに超える状況が広がっていた。

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