第53話 認めねえ
まだ道弥が結界内で睡眠をとっている早朝、リーゼントこと桃慈が目を覚ます。
(あまり寝れねえな)
桃慈が体を起こすと、既に起きていたゆずと目が合った。
「おはようございます、桃慈さん」
「おお。こいつはまだ寝てんのか?」
桃慈は道弥を見ながら言う。
「はい。まだ早朝ですから。体は大丈夫ですか?」
「ああ。この馬鹿の式神のせいで酷い目にあったぜ」
「桃慈さんはなぜ道弥君にだけあたりがきついんですか?」
ゆずは道弥が寝ていることを確認し、気になっていたことを尋ねた。
「実力だけならあいつがリーダーかもしれねえ。けど、俺は自分が認めた者にしか従わねえって決めてるからよ」
「自分が認めた者、ですか。どんな人なら認めるんですか?」
桃慈は今までで一番真剣な顔で話し始める。
「俺は本当の漢にしか従わねえ。本当の漢ってのは『強さ』と『優しさ』を兼ね備えた男だ。確かに道弥は強いと思うぜ。それは認める。けどそれだけの男に俺は従うつもりはねえ」
ゆずは、桃慈なりの理由があっての行動があったことに驚いた。
「強い陰陽師ってのは傲慢な奴ばかりだ。俺はそんな奴ばかり見てきたぜ」
「なら、なぜ陰陽師になろうと?」
明らかに桃慈は陰陽師に向いているとは思えなかった。
「俺は子供の頃よお、妖怪に捕まっちまったんだ。もう絶対死んだと思ったぜ。怖かった。けど、そんな時ある陰陽師の人が自分が怪我してまで俺を助けてくれたんだ。背中は傷だらけなのに、優しく俺にもう大丈夫だよ、って言ってくれた。あの時から陰陽師ってのは俺のヒーローだった」
桃慈は懐かしい思い出を語るように話す。
「俺は実際に陰陽師になろうと、陰陽師事務所に弟子入りしようとした。だけど、あいつ等俺が陰陽師の家系じゃねえと知ると門前払いだ。強いからって弱者を踏みにじるやつもいた。俺はそんな陰陽師に憧れた覚えはねえ! その時誓った。俺は自分が認めた漢にしか従わねえってよ」
「道弥君はきっと優しい方ですよ」
「それは俺が、自分の目で確かめるのよ」
桃慈はそう言った。
道弥が起きる前の早朝のひと時だった。
太陽が真上に来る頃、俺達は森をさ迷いながら妖怪を祓っていた。
その後も順調に妖怪を祓い、追加で赤勾玉が二つ手に入った。合計百七点。
夜になり、本日はこれで終了。
俺達はリュックに入ったドライフードを食す。
『森の中に中鬼が十七体います。すべての居場所を教えましょうか?』
真が声をかけてきた。
『別にいいさ。のんびり探すからな。俺が独占しても面白いが……そんな試験も味気ない』
焚火にあたりながら味気のない食事を食べていると、宙から莉世が降って来た。
「道弥様~! 狩ってまいりましたよ~!」
莉世は笑顔で何かを投げる。受け取ったそれは青勾玉三つだった。
どうやらソロで狩りをしていたようだ。
『独占しないのでは?』
『これは不可抗力だ』
真の言葉に、俺は短く返す。
褒めてもらえると思って笑顔でこちらを見ている莉世に俺がかけれる言葉は……。
「ありがとう、莉世。助かるよ」
「勿論です! なんなら残りの青勾玉今から全て狩って来ましょうか?」
「いや、のんびりとしてていいぞ、もう一位は固いだろ」
俺が全てを取ると、他の受験生に影響を与える可能性が大きい。
白勾玉を守れば俺が負ける可能性は非常に低いだろう。
それに……あと一つある白勾玉のありかにも心当たりがある。
「おい、食事進んでねえな。ドライフード嫌いなのか?」
リーゼントが箸の進まないゆずに声をかける。
「う、うん。あまり好き、じゃ、ないかな? ごめん、私お手洗い行ってくるね」
ゆずは少し驚いたような表情を見せた後立ち上がって草木の中へ向かった。
「今日やたらトイレ行くよな。なんか食い物で当たったのかね?」
リーゼントが首を傾げる。
「女性にトイレについて聞くのはノーマナーだよ、リーゼント」
「リーゼントって言うな! 俺だってそれくらい分かってるわ!」
『主様、お耳にいれたいことが』
脳内に真の声が響く。
『ゆずのことかい?』
『はい。彼女は……』
『分かっているさ。何も言わなくていい。行動には責任が伴う。彼女の好きにさせたらいいさ。けど……何かあったら容赦はしない』
『ご存じでしたか?』
『狡い手を使う。その程度で俺がなんとかできると思っているのなら、舐められたものだ』
俺はゆずが消えていった森の中を冷めた目で見つめていた。
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