第13話 課外授業
俺達は電車で二十分ほどで東京都内の三船山に到着する。俺はなけなしのお小遣いを往復で使い切ることになるだろう。
ここは陰陽師見習いが妖怪退治のために来る場所でもあり陰陽師協会が所有している山だ。
そのため山はフェンスで覆われており、第五級立入禁止地区に認定されている。
一言で言うと、五級陰陽師以上が一名居ないと入れないよ、という場所だ。
五級陰陽師は陰陽師として最もランクが低いので、ようするに免許持ちならだれでも入れる。
だが、俺は勿論免許など持っていない。
「なあ、道弥。どうやって入るんだ?」
夜月が心配そうに尋ねる。
勿論入り口から一般人の俺達が入れる訳はない。
侵入しかない。俺達は入り口から大きく離れたところに向かう。フェンスは三メートル近い。子供の体で登ることは危険だろう。
俺は印を結ぶ。
「
俺の言葉と同時に、立派な木製の橋が地面から生え、フェンスを越え向こう側まで橋を架けた。
「凄い……立派な橋だな」
夜月は恐る恐る橋に触れる。
「大人十人以上が同時に渡っても大丈夫だから安心して渡れ。二人とも渡り切ったら解除するから」
俺達は橋を渡り、三船山に侵入を果たした。
山の中は思ったより多くの人が居た。東京にしては山の中は緑に満ちており、ところどころ妖気が感じられる。
だが、人の数に比べて妖怪の数が少ないのか、全然妖怪と出会えない。
俺は集中して妖気を感知する。
小さな妖気が集まっている場所へ向かうと、開けた土地に小鬼が集まっていた。
同時にそこには順番待ちの列が続いている。
親や師匠である陰陽師が、弟子の子供達を連れてきているようだ。もはやアトラクションじゃねえか。
並んで妖怪と戦うなんて、変な時代が来たものだ。
そう思いながらも俺達も列の最後尾に並ぶ。
並んでいる間、ふと夜月の顔を見ると、緊張した面持ちで護符を見つめている。
「夜月なら大丈夫だ。安心して戦え」
「分かってる! 緊張などしていない」
と誰が見ても緊張している様子なのに、意地を張る夜月。
そんな夜月を見ながら待つこと三十分。
ようやく列に終わりが見えてきた。
だが、そんな時中年の男が突然列に割り込んできた。
「おっと、ごめんよ」
男はおそらく弟子であろう子供を連れ、堂々と俺達の前を陣取った。
「皆、並んでいるんですが?」
俺は努めて温厚にとっとと並べと伝える。振り向いて俺達を見た中年男は顔を歪める。
「俺達はもう帰らねえといけねえんだ。少しくらい譲ってくれても罰は当たんねえだろ。それに、お前らガキだけじゃねえか。何でここに居るんだ?」
「父と来ました。それが何の関係が?」
「生意気なガキだ。どこのもんだ」
「芦屋だ」
俺の言葉を聞いた男と、連れの子供は馬鹿にするような笑みを浮かべる。
「芦屋か! 芦屋家の時点で才能はねえんだ。とっとと陰陽師を廃業してサラリーマンでも目指せ。それとも俺が陰陽術でも教えてやろうか? 芦屋家じゃ鬼火もできねえだろ?」
ふう。またこのパターンか。標的が夜月じゃなくて俺で良かったよ。
そう考えていると、俺と男の間に夜月が入り込む。
その顔は怒りに溢れていた。
「おい! 大の大人が割り込みをしたうえ、子供相手に家の悪口なんて恥ずかしくないのか? 子供がどうにもできない家のことで責め立てるなんて、卑怯だ! 偉そうに、お前は一体何級だ?」
「……四級だ」
夜月の剣幕に押されたのか、しどろもどろに答える男。
「そんなことばかり言っている四級に教わることなどない。それに鬼火なら、もう知っている! 火行・鬼火」
夜月は印を結ぶと、鬼火を生み出した。中年男の頭の上に。
鬼火は男の髪の毛に触れ、焦げ臭い臭いが周囲に漂い始める。
「うっ、熱っ!」
男の髪の毛が燃え始めた。パニックになる男。
完全に頭部が悲惨なことになっている。これは惨い。
周囲が騒がしくなり始めた。侵入したことがばれるとまずい!
「行くぞ!」
俺は夜月の手を掴むと、急いでその場を逃げ去った
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