引退の日

あなたへ


先日、あの子の部活の大会がありました。

もう引退した子も多いけれど、

あの子は、その大会を最後に、引退すると決めたようでした。


あの子が、2年間頑張ってきた長距離走。


走るのは早い方ではないけれど、

走るのが好きだからと、ずっと頑張って来ましたよ。


大会前日より、緊張するって言葉の連続で、

あの子は、緊張している自分に負けるのではないかと、

見ているこちらが気が気ではありませんでした。


「緊張する」の代わりに「 楽しみ」って言ってごらん


緊張するあの子にこんな声を掛けると、

あの子は素直に、「楽しみ」って言葉を繰り返しました。


大会当日は、朝から緊張の面持ちで、

楽しみ・・・って、引き攣り顔のあの子。


出掛ける前には、あなたに、手を合わせている様子が、見えました。

あなたに、見ててねって、お願いしたのかな。


いよいよ、スタートの時、

あの子の緊張が、遠くからでも伝わりました。


走り出しは順調に、体調も良さそうに見えた。


途中、苦しくなってきたのか、ほんの少しだけ、ペースが落ちた。


後半は、持ち直し、ペースが戻ってくるのが見えた。


そして、最後の数百メートル、

あの子は、今ある力を全て出し切るかのように、ラストスパートを掛け、

ゴールまでを一気に駆け抜けました。


あの子はずっと、1秒も狂う事なく、

自分のタイムの壁を超えられないでいたけれど、

12秒もタイムを上げてのゴールでした。


走り終えて、私のところに来たあの子の顔は、本当に清々しく、

第一声が、「楽しかった!」でした。


引退に相応しく、堂々と走り切ったあの子の姿、本当に誇らしかった。


あなたも、きっと見ていてくれましたよね。



2016.07.25


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