第74話 再会
フィエラたちと約束した3ヶ月がもう少しで経とうとしていたある日。
Aランクの魔物サイクロプスを倒した俺は、魔力器官を食べたことでようやく時空間魔法が使える魔力量が溜まった。
「ようやくだな。さっそく使ってみるか。
俺が魔法名を唱えると、目の前には頭より少し大きいくらいの穴が開く。
「ふむ。今回は入り口を小さく作ってみたが、とくに問題なさそうだな」
目の前にある穴に手を入れて中の広さを確認してみるが、すぐに手がつくということもなく広さも十分あるようだった。
荷物をストレージの中に入れる前に、俺は適当に落ちていた石を拾って中に入れたあと魔法を解除し、今度はそれを手の上に現れるようなイメージで再度魔法を使用する。
「こっちも問題なしだな」
物を収納した後に魔法を解除し、その後もう一度使用してもしっかりと入れた物を取り出せることを確認すると、俺は背負っていた荷物たちをストレージの中にしまっていく。
「よし。これで荷物も減って楽になったな。本当、時空間魔法は便利だな」
俺が時空間魔法の存在を知ったのは、二周目の人生で学園の図書館に行った時だった。
あそこには世界中の書物や個人の論文まで幅広く置いてあるため、古代魔法に関する本や論文も多く存在した。
そして、当時の俺はアイリスの婚約者として相応しい男になりたくて、勉強や魔法の練習を頑張っており、もっと魔法のことを知りたくて立ち寄った図書館でたまたまその本を見つけたのだ。
ただ、その本にはどのような古代魔法があったのか、そして必要とされる魔力量が多いことや何故現在では使われていないのかなど推論を交えながら説明されているだけで、実際にどんなことができたのかなどは記されていなかった。
その時は空想上のものだろうと思い気にも留めなかったが、とある人生の時に俺は未発見のSSSダンジョンに偶然入り、そこで見つけた魔導書に時空間魔法で使用できる魔法が書かれていたのだ。
俺はその魔導書に書かれていた時空間魔法に興味を持ち、時空間魔法でできることやその仕組み、何故多くの魔力が必要なのかを頭の中に入れていった。
本当は実際に魔法が使えれば良かったのだが、残念ながらその時は魔力量が足りず、結局死ぬまで魔法を使う事はできなかった。
「凄いなぁ。これが時空間魔法か」
初めて使う魔法に感動した俺は、何度もストレージを開いては閉じてを繰り返す。
「やば。魔力が…」
馬鹿みたいに何度も魔法を使ったせいで魔力が枯渇しそうになった俺は、多少の頭痛で正気に戻りすぐに魔法の使用をやめた。
「長距離を転移するのはまだ無理だが、これなら短距離転移くらいならできそうだ。そっちも後で試そう」
久しぶりに楽しみなことができた俺は、その後浮かれた気持ちで近くの街で借りていた宿屋へと戻り、その日を終えるのであった。
時空間魔法が使えるようになってから数日後。俺は一つの目的を達成したことでこの数日間はゆっくりと休み、そろそろ待ち合わせをしているサファリィへと向かうことにした。
「ここから身体強化を使って走っていけば、4日後くらいには着くか」
サファリィまでかかる時間をざっくりと計算し、準備運動をしてから走り出す。
ストレージに荷物を入れていることで前よりも動きやすくなり、走る速度も以前より早くなったように感じる。
それからしばらくは野宿などをしながら進み、予定より半日早くサファリィへと到着する。
「しまった。サファリィのどこで待ち合わせるか話してなかったな」
しかし、いざ着いてみると街のどこで待ち合わせるかなど話し合っていなかったことを思い出し、どうしたものかと考える。
「少し面倒だが、索敵魔法でフィエラたちの気配を探した方が……何やってんだ」
索敵魔法で街中からフィエラたちを探そうかと思い歩き出そうとした時、突然後ろから抱きしめられた。
「気にしなくていい。久しぶりのエルを堪能してるだけだから」
フィエラはそう言うと、腰に回した腕にさらにギュッと力を込めてから大きく息を吸う。
「やめろ。匂いを嗅ぐな」
「いい匂いだから大丈夫」
「そういう問題じゃない。とにかく離れろ」
俺がそう言うとフィエラはようやく離れ、俺は改めて彼女たちの方を振り返る。
「久しぶりだな」
「ん。久しぶり」
「えぇ」
フィエラはいつもと変わらない様子だったが、シュヴィーナは何故か暗い顔をしており、今にも泣き出してしまいそうな雰囲気があった。
「ふむ。話はとりあえず後で聞こう。まずは宿屋を探すぞ」
「それなら、私たちが泊まってる宿屋でいい」
「わかった」
シュヴィーナが何故あんな表情をしていたのかは気になるが、まずはフィエラたちが泊まっているという宿屋に移動し、追加で俺の分の部屋を一部屋借りる。
そして、自分の部屋に入る前に俺がフィエラとシュヴィーナの部屋へと立ちより、フィエラとシュヴィーナが一つのベッドに並んで座り、俺はもう一つのベッドに腰を下ろしてさっそく話を聞く。
「それで?何があったんだ?」
「……」
まずはシュヴィーナに何があったのか尋ねてみるが、彼女は下を向いたまま顔を上げようとせず、喋る気配もなかった。
「フィエラ。状況の説明をしろ」
「ん。簡単にいうと、エルから出された課題を達成できなかった」
「どっちだ?」
「闘気の方。Aランクはこの間達成したけど、闘気だけはダメだった」
「なるほどな…」
どうやらシュヴィーナの元気がないのは、俺から出された課題を達成することができず、俺たちの旅に同行できないと思っているからのようだった。
「ふむ」
俺は目に魔力を集めてシュヴィーナの方を見てみると、彼女の体の中に魔力とは違う力の塊が存在するのを確認する。
「フィエラ。お前、シュヴィーナにどんな教え方した?」
「ん?集中したら力の塊を見つけられるはずだから、あとはパッと解放する感じでやる。解放できたら、それをグルグルする」
「……」
フィエラの説明を聞き、体内に闘気を使うためのコアは存在するはずなのに、シュヴィーナが何故使用できていないのかがようやくわかった。
(そうか。フィエラは感覚派だから教えるのが下手なのか)
「フィエラ。すまないが少し外に出ててくれ」
「ん?わかった」
彼女は突然のことに少し疑問そうな様子を見せながらも、指示に従って外に出て行く。
彼女は耳が良いから、念のため俺とシュヴィーナの周辺を遮音魔法で包み、外に声や音が漏れないようにする。
「シュヴィーナ」
「なに、かしら…」
いまだに落ち込んでいる彼女は、俺の呼びかけに力無く答えると、いよいよ置いて行かれると思ったのかグッと拳を握る。
「まず結論から言うぞ。お前は課題を達成している。だからしばらくの同行は許可する」
「…え?」
シュヴィーナは思っていた言葉と違う事を言われ、驚いた表情をしながら顔を上げる。
「で、でも私は、闘気が使えていないわ」
「そうだな。だが、さっき確認したがお前の体内にはちゃんと闘気を使うエネルギーが存在している。今回はその…言いづらいんだがフィエラの教え方が良くなかった」
「フィエラの?」
「あいつは見ての通り獣人だから、大体のことは感覚で出来てしまう。その分他人に教えることが上手くないから、あいつの教え方がお前には合わなかったんだ」
「そ、そうなのね。でも、確かに言われてみれば、パッと言われたりグルグルって言われてもよく分からなかったわ」
「だろうなぁ」
話を聞いただけで、フィエラがシュヴィーナに教えている時の様子が容易に想像できてしまう。
「今から俺が少し教えてやる。確認だが、コア自体は何処にあるかわかっているか?」
「えぇ」
「そうか。だが念の為コアを見つけるところから始めるから、もう一回コアを自分でも確認してみてくれ」
「わかったわ」
「んじゃ、まずは目を閉じてくれ」
シュヴィーナが言われた通りに目を閉じると、俺は彼女の後ろに回って背中に手を当てる。
そして、ゆっくりと俺の闘気を彼女の中へと流し込んでいく。
「今、俺の闘気をお前の中に流している。それを体内に集中して感じ取ってみろ」
「…あ。確かに、私の体の中を何かが流れてきているわ」
「おーけー。なら、その流れを辿っていき、自身の体の中にある似たエネルギーの塊を探せ」
シュヴィーナは俺の指示に従うと、集中するために喋らなくなる。
「……見つけたわ」
それから少しして、自身の中にある闘気のエネルギーを見つけた彼女は、その事を伝えてきた。
「よし。なら、そのエネルギーを今度は自分の力で動かしてみろ。感覚としては魔力を体内に巡らす時と同じだ」
「やってみる」
俺はその間もシュヴィーナに闘気を流し続けていると、彼女のコアからエネルギーが溢れてくるのを感じとる。
そして、それは少しずつ彼女の体の中を流れていき、ゆっくりと全身に回っていく。
「よし。目を開けて良いぞ」
「…うそ。できた。これが闘気」
目を開けたシュヴィーナは、自身の体を包む薄い金色のオーラを見て目を見開く。
「あぁ。それが闘気だ。今の感覚を忘れるなよ。それと、おめでとう」
「うぅ…。ありがとう!エイル!」
「うわ!」
闘気が使えてよほど嬉しかったのか、シュヴィーナは勢いそのままに俺に抱きついてくる。
「あー、よかったな。とりあえず邪魔だから離れろ」
俺はシュヴィーナを自身から引き剥がすと、魔法を解除してフィエラを中へと入れる。
「何があったの?」
フィエラは先ほどとは違って嬉しそうにしているシュヴィーナを見て、何があったのか状況説明を求めてくる。
「シュヴィーナが闘気を使えるようになっただけだから気にするな。それと、今後はこいつも連れて行くからな」
「ん?わかった」
「んじゃ、俺は部屋で休む。明日は休みにして、明後日にこの街を出るからな」
俺は今後の予定を伝えると、軽く手を振って自分の部屋へと戻り、その日は朝まで休むのであった。
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