めての盃、ゆんでの桜 ~京都編~

サクラ堂本舗 いまい あり

都へ

都にて…1

 心にも体にも秀穎を刻み付けて京に向けて旅立った。

辛い、悲しいそんな気持ちを振り払う様に前を向いてあるいた。


一人ではない。いつも秀穎と共にあるのだと心に刻んで進む。

中仙道はなかなかに雪深く、慣れない道に難儀する。


それでも風景はどこか出稽古先の日野や小野路に似て見えた。

猛者ばかりの集まりで、日々いさかいがない訳ではない。


途中の宿振りで勇先生が手違いをした様だ。

大体、勇先生にはそういう細かなことは向いていない。

皆が心配していたことが的中した。


その件で大きな焚き火をおこした芹沢鴨という人を初めて知った。

派手なことをする人だ… と思ったけど

それ以上に世間ってのは広いもんだなとつくづく感じた。


マジマジと火を見ていたら声をかけられた。

「お前も火を消して欲しいか?」

「いえ、私の師の不手際ですから何も申し上げることはありません」

「お前の師か、奴はあんなに困っておるようだがなぁ」

「ですねぇ」

「お前も一緒に謝らないのか?」

「謝ったら火を消して貰えますか?」

「どうだろうな」

「火は火種がなくなれば消えますから」

「放っておけと?」

「いやぁ消えるに越したことはないんですけどねぇ」

「お前が消しちゃどうだい?」

「ここまで大きいとなかなかねぇ…」

「お前… 変な奴だな」

「よく言われます」去り際に一言添えた。

「あぁ芹沢先生。宿の用意は出来ましたので、寒くなったら

どうぞ宿へお入り下さいね」

「わかったよ… おっとお前、名前は何という?」

「沖田です」

「覚えておこう」

「有難うございます」

こんな時に、花街で培った仲裁が役に立った。



 目的は将軍警護といいつつ、京の都見物や

物見遊山に行く気持ちがない訳ではない。

時間があれば、有名な寺社をみて美味しいものを探して

甘味や上手い酒も探して送ればきっと喜ぶだろう。

秀穎の喜ぶ顔を想像すると都入りが楽しみになっていく。


 そして、この様々な経験を生かして道場を作って

少しは… ほんの少しでもいいから秀穎に近づける様にと願った。


京は俺に、とてつもない夢をみさせた。


猛者ばかり、金と名声につられて京にきた者ばかりだ。

予定の人数を超え、当初貰えるはずの路銀も減ってしまった。

それでも、都いけば何とかなる皆そう思っていたようだ。



ところが、京の都に着いた気持ちになったのは浮世絵などで有名な

三条大橋や鴨川を見た時だけで、俺達はそのまま都をつっきって、

京の田舎へ泊まることになった。


 世話になる家の前には田んぼが広がっている。

遠方に見えるのが二条城だと説明をして貰っても遠すぎて実感がない。


この町並みは日野に出稽古に来たのかと錯覚をさせるほど

のどかな町だった。



   ★,。・:*:・゜☆,。・:*:・゜★



 都について早々に清河が妙なことを言い始めた。

確か俺達は将軍様の警護で京に来たはずだ。攘夷はわかる。

だが尊王だと?


 いや、将軍様か朝廷か比べることは出来ないが

将軍様ではないと言った。確かに言った。


いきなり妙なことを言い出すもんだと思ってたら、

試衛館の人達も顔を見合わせて確認している。

寺の中は騒然としてきた。

右手の奥では先日の芹沢先生が騒ぎ始めた。



 結局、このまま帰るか残るかの話になった。

清河について朝廷につくことなど、到底できない。

さりとて、このままなにもせずに江戸には帰れない。


ただ京に来て将軍警護をして帰るつもりだっが

騙されたままたまま、あっさりと引く訳にはいかない。

そんな気持ちだった。


近藤先生や試衛館の人達に加えて芹沢先生の一派も

京に残留することが決まった。


「総司。お前はどうするんだ?」

勇先生が聞いてくれたが、残ると思っている。

「はい。私も一緒に残ります!!」


残るって言っちまったよ。


秀穎… ごめん。帰る時期が遅くなりそうだ。

でも、このまま帰るなんて出来ないこと…

わかってくれるよね。

秀穎なら俺の考えること、判ってくれるよね。



でも、この先どうなるんだろう? どうするんだろう?

そんな思いを引きずりながら


沖田総司。本日、京に残留決定。

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