冒険者シルの日常茶飯事
こーゆ
第1話 お荷物なのはどっちだ?
「パーティーは解散だ!」
いきなり何を言っているんだ? ガド?
ここは町から離れた森の中だぞ?
両手に抱えた袋を持ち直しながら、ガドというそろそろ青年な?男が俺に言い放った。袋に傷でもついたのかいつもより汚れがひどい。
「聞こえなかったのか、パーティーは解散だ!」
それは探索活動中にする話か?
町に帰ってからじゃダメなのか?
パーティー?は?俺はお前のためについてきているだけなんだが。だいたいお前に他の仲間はいないだろう?
まあ一応聞いてみるか。
「ああ、聞こえている。理由を聞いてもいいか?」
俺は声を潜めて言った。
彼は重そうな袋を再び抱えなおし大声で答える。
「理由だと?!まだ分かっていなかったのか!お前は体力も無いし、獲物を持って帰る事もしないじゃないか!」
ああ、自分のいう事を聞かないからか。
何度も言ったはずだがなぁ。お前が物を持ちすぎるせいで、俺はいざという時のために動けるように自分のもの以外はもたないぞって。
それにこんな森の中で大きい声でする事じゃないと前に言ったはず。
いらん物を呼び寄せないように静かに行動するべきだと教えたよな?
「討伐証明部位は持って帰っているぞ?」
もう半分どうにでもなれという気持ちでいう。討伐証明部位は何をしたか証明するためのモノなんだぞ?お前は金にならないからといって切り取りもしないじゃないか。
売れない部位だからこそ冒険者ギルドでの討伐照明になる。
お前はどこの誰の依頼を受けて森に立ち入る許可をもらっているというんだ。
この森は危険だからこそ管理されているのに。
普通の獣を獲るならここじゃなくてもいいだろう?
それに重そうに獲物を抱えて騒いでいるが、こんなところで騒いでいるとそろそろやばいんだが。
本来そういうのは解体しないまでも、血抜きぐらいはしないと価値はさがるぞ?
「違うっ!猪や鹿の肉や角だ!」
だからそれは受けた依頼外のモノじゃないか?
今回の依頼はゴブリンの巣の発見か討伐。森の状況の確認と出来れば討伐するようにっていう依頼。本来ならあり得ない事だが、ランクアップ前のランクだからこその依頼だったはず。巣は増えることも有るから場所の特定とマッピング。討伐はできればという感じ。無理はしなくて良いようになっている。
それ以外のをやってる状況じゃないはずなんだが。
「それはお前が要るだけなのでは?」
少しずつ森から遠ざかるように歩く。
お前は話に夢中なのだろうけど、少しは周りを見てくれないかな?
「当たり前だっ!なんで獲ったものを置いて帰るんだよっ。なんで持ち帰らないやつに分けなくちゃならないんだっ。それにお前は後ろから獲物を射るだけじゃないか!オレは切りつけたりして血だらけになっているのに……」
血だらけなのは血抜きしないものを抱えているせいだよ。
あとは慌てて切りつけるから致命傷にならない所にばかり傷を負わせているからだね。
「そうか……でもそれは仕方がないじゃないか。契約では俺は弓と索敵だろう?」
ちらちら陽が入り始めたな。森の端も近づいたみたいだ。この森が管理されている証拠にここには簡易的にみえる柵と番人がいる警固所がある。
そこで依頼を受けた証の依頼票をみせ通る。
ふう。街につづく道も見えるようになった。
これで安心して声が出せる。
こいつは何を言ってもこちらの注意をきかない。
「だからだ!もう、お前とはやっていかない。オレは他の奴とパーティーを組むことにしたんだ」
これでこいつと離れることができる。もう少しで町だ。
こいつとパーティーを組みたい奴がいるとは知らなかったな。
「ああ、そうか……わかったよ。じゃあ、今日のを提出後解散だな」
「だ!!!」
ようやく町にたどり着き町を守る外壁門で門番に挨拶をかわすと、肩をぽんぽんと叩かれた。どうやら話し声が大きすぎてここまで聞こえていたようだ。
俺は肩をすくめてそれにこたえた。
それからもギャアギャア言い募るそいつを宥めながら冒険者ギルドにたどり着いた。
ちょっと早い時間なのでそんなに人はいない。
ギルドの受付の前、そのカウンターに依頼票と汚れた革袋を乗せる。
今日の受付嬢はキャリーさんか。すまんな。面倒をかける。
「これ今日の依頼書と収穫物。討伐証明部位はこっちで。あ、今日でパーティーは解散なのでランク変更もお願い」
俺が受付のカウンターにそれらを出したからか、ガドが慌てて自分の持っている袋もカウンターに乗せて言った。
「あと、これだけ獲物はある!買い取りもしてくれ」
血が滴る袋をみやるとキャリーは眉をひそめていう。
「パーティー解散と、依頼書と部位は確認しました。すぐに精算に入ります。買い取りはあちらのカウンターでお願いします。カードをお願いします。」
ガドが慌てて買い取りカウンターの方へ袋を抱えていく。
その背中をにながら思う。いいのかなぁ。まあ、あれだけ教え込んだのに考えなしなのは本人の責任だよなぁ。俺のせいじゃない……よな?
ガドが買い取りカウンターでやり取りしている間に、キャリーが手元の依頼票にサインをしながら俺に伝えてきた。
「シル様、カードはこちらです。依頼完了とのことでギルマスより250Gです。今日の分は半額こちらに入れておきました」
俺が受けていた指名依頼の紙のサインをを確認してそれを指で弾く。
「ありがとう。もうこんな指名依頼無しで。もうこのギルドから抜けようと思ってるから」
終わったら言おうと思っていたことを告げると、彼女は慌てたように椅子から立ち上がった。
「そ、それは困りますっ。あ、今日の完了でクラスアップです。確認を。それとまた新しいギルドに加入されたのですか……いつになったらアイアンカードから抜けるのやら……」
ギルドは沢山あり、すべて同じカードで管理されている。しかしカードの色は加入しているギルドすべての中で一番下の色になるのがこの世界の決まりだ。
「だって楽しそうなんだもん。あ、あいつギルド変更した方がいい。狩人ギルドを紹介してやってよ」
まあ老婆心ながらもいちおう伝えておこう。
「シル様!そんなにダメでしたか?」
キャリーの声は小さくなる。せめて周りには知られないようにとの心遣いか。
「ああ、向いてない。本当は狩人もやめた方がいいんだか……」
あの人の意見を全く聞こうともしない自己中心的な心構えじゃやっていけないだろう。無駄に命を捨てるようなもんだ。
「スキルは良さそうな感じでしたが……」
ああ強打と必中を持っていたが、考えないで剣を振り回すんじゃそうは発揮できないだろう。
「スキルだけはね。人の事も聞かないし、周りが見えてない。気配も消せないし、読めない。自分のことも分かってないから人の事はもっとみえない。町の職人系がいいけど、たぶん無理。性格が合わないだろうなぁ」
この半年しか付き合ってない俺でも嫌になったもんな。つい遠い目になりそうになる。
「そうですか……シル様がそう言われるなら本当に無理なんでしょうね」
うんうん。そうなんだよ。あ!
「あ、俺しばらくかじギルドにいるから。」
何かあった時のためにとりあえず居場所だけは伝えとかないとな。いざという時はないに越したことはないけど。
「かじ?……鍛治ギルドはすでにAクラスでは?」
首を傾げて俺を見るの、可愛いな。いや今はそういう時ではない。
「家事だよ!掃除とか料理とか!楽しみだなぁ」
目ん玉おっきいな。びっくりさせたかな?
「今、何本ですか?」
キャリーはカードの裏を見ながら数え始める。
へへっ。右の指で頬をかいてこたえる。
「えーっと、六本目かな?……冒険者、鍛治、狩人、商人、薬事、家事だね」
指をりつつ……
「魔法とか魔道具とか抜けてませんか?」
カードの裏のギルドの数は増えたり減ったりするよね?えっ?しない?へんだなぁ。
「あ、そこ二つ抜けたから!」
「はっ?」
そう告げると彼女は立ったまま固まった。
「面倒なことばかり言うんだもん。楽しめなくなったからねぇ。だから、もうこんな依頼持ってこないでね?」
持ってくると完全に抜けちゃうからね?いい?
「ギルマスには伝えておきます……」
慌てたように席をたった彼女をみながら、俺はギルドの建物から出た。
きっとギルマスのところにでも報告に行くのだろう。
ふぅ!
俺は自由だ!
これはシルバート=ロックランドという齢31というのに見た目15歳の少年のような男の自由な生き方をする物語である。
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