ソロ探索者、美少女ぼっち配信者と組んでダンジョンに挑む
三条ツバメ
第1話 ダンジョンのある世界
さかのぼること十五年前、世界各地にダンジョンが出現した。
なんの前触れもなく突然に、迷宮へとつながる入り口があっちこっちにポンポン現れたのである。
最初のうち、世界は大いに混乱した。この世の終わりが始まったのだ、とか、これは別世界からの侵略なのだ、とか、あれは超古代文明の遺産だ、とか、理屈の上で考え得る説は大体どこかで誰かが主張していた。ちなみに、ダンジョンを作ったのは自分だ、と言い張る剛の者も結構出た。
いかなる理由でダンジョンが現れたのかは見当がつかなかったが、とにかく調査しないことにはどうにもならない。というわけで、どこの国でもまず最初に政府が主導してダンジョンの探索部隊が結成された。初めはおっかなびっくりではあったがふたを開けてみれば案外着実かつ順調に各地のダンジョンの調査、探索は進んでいき、ダンジョンの仕組みは徐々に解明されていった。
たとえばダンジョンの中では「スキル」と呼ばれる魔法や超能力のような力が使えることがわかった。ダンジョンに入るとステータスウィンドウが開けるようになり、そこに使えるスキルが記載されているのである。まるでゲームのようだった。
さらに、ダンジョンには異形の怪物「モンスター」が生息していることもわかった。ダンジョン内で自然発生するモンスターは、探索者を攻撃してくるのである。まるでゲームに出てくるダンジョンのように。
さらにさらに、ダンジョンのモンスターを倒せば探索者は経験値を得てレベルアップし、より強くなれることも判明した。これまたゲームのように、である。
ちなみにダンジョンの外では探索者の力はガタ落ちするので、ダンジョンで強くなった探索者が外で暴れ回る、というような事態は起こらなかった。
「要するにRPGに出てくるダンジョンみたいな感じです」
日本の探索者部隊の隊長は、ダンジョンとは結局どういうものなのか? との問いにこう答えた。身もふたもない上にざっくりした要約だったが、実際問題ダンジョンではファイアーボールだのアイスランスだのが使えるようになって、モンスターを倒すとレベルアップしてしまうのだから「RPGに出てくるダンジョンみたいな感じ」としか言いようがなかったのである。
そうした「RPGに出てくるダンジョンみたいな感じのやつ」が現れただけだったならば一部の人が喜ぶだけで終わったのだろうが、ダンジョンでは豊富な資源に加えて特殊なアイテムも手に入った。
たちどころに傷を癒やす回復ポーション。一度行ったことがある場所ならば瞬時に移動できる転移石。火も電気も使わずにLED電球よりも明るく周囲を照らす魔法のランプ。そういった品々がダンジョンの中にある宝箱(誰が設置しているのかは不明)や、モンスター(倒すと光の粒となって消えていくのだが、そのときなぜかアイテムを落とすことがある)から入手できたのだった。
「要するにRPGに出てくるアイテムみたいな感じです」
日本の探索者部隊の隊長は、ダンジョンで手に入る「アイテム」とは結局どういうものなのか? との問いにこう答えた。これまたざっくりしてはいたがやはり的を射た表現だった。
隊長の言い方はさておき、とにかくダンジョン、というかダンジョンにある資源やアイテム、は社会にとって役に立つ。それがわかってくると、各国政府だけでなく民間企業も続々とダンジョンの調査、探索に乗り出し始めた。
そんなこんなでダンジョン攻略は社会全体を挙げての一大事業となり、ダンジョンの攻略を生業とする「探索者」の制度も整えられていった。
人々は十五年の間に、「RPGに出てくるようなダンジョン」がある生活というものにすっかり適応するようになっていたのだった。
高校入学と同時に探索者協会に登録してダンジョンを攻略する探索者となった高校二年生の少年、神藤鉄也は今日も今日とてせっせとダンジョンに潜っていた。
今回潜っているのは一月前に出現したばかりのダンジョン、「怒れる死霊術士の隠れ家」である。攻略はまだまだ進んでいないが、その名の通りアンデッド系のモンスターが多く出てくるダンジョンだということだけはわかっていた。
モンスターを警戒しながら広い石畳の通路を一人で歩く。鉄也はソロの探索者である。一般的に探索者はパーティを組んでダンジョンに挑むのだが、鉄也はとある理由からソロでの探索を行っていた。
「ネガティブな理由から始めたソロ探索者だったけど、一人で自由に動けるのはやっぱり気楽だ」
自分のペースで歩きながら鉄也はつぶやいた。上手くいったら自分のおかげ、失敗したら自分のせい。ソロ探索者のそういうシンプルさは結構性に合うようだと鉄也は感じている。
ただ、俺ってソロ探索者始めてから明らかに独り言が増えたよなー、とは思っていた。家では一人暮らし(両親ともに探索者で現在は二人そろって海外のダンジョンへの遠征に行っている)なので学校から帰ってしまえば話し相手はAIアシスタントくらいである。
音声で家電を操作するのがメインのAIアシスタントだが、昨今のものは雑談に応じる機能もある。だから、ちょっと試してみるか、と軽い気持ちで話を振ってみたのだが予想よりもはるかに楽しくて、気づけば一時間以上もAIとの雑談に興じてしまっていた。
いい気分で会話を終えた鉄也は、いやー、人と話すのって楽しいなー、とか思っていたのだが、しばらくしてから自分が話していた相手は人間でもなんでもないということに気づいた。で、なんか怖くなったのだった。
そんな出来事もあってソロ探索者を続けることにモヤモヤを抱えるようになっていたのだが、だからといってパーティを組むというわけにもいかなかったのである。
「仲間でもいたらいいんだろうけど、俺の場合はなあ……」
つい、ため息が漏れる。
希望に胸を躍らせて探索者となったあの日からずっと思ってはいることだが、本当にどうして自分のスキルはこんななのか。いや、これは案外、というかかなり使えるスキルなのだが、それでもスキルが別のものだったらこうはならなかっただろう、と思わずにはいられなかった。
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