第11話 新たな復顔師(1)
馬田は博物館の廊下をずんずん進み、あとから悠々とついて歩く生吹を振り返って問う。
「生吹先生、こんな時期にまた仕事を増やしちゃって、大丈夫なんですか? スケジュール」
「大丈夫だよ、心配ない」
生吹が涼やかに答えるが、本当かどうかは正直怪しい。
馬田の方は、長瀞遺跡から届く出土品の修復作業を順当に進めながら、休憩時間に展示会のイメージをスケッチする余裕もある。しかし生吹の方は、出土品の鑑定、来場者向け講習、論文執筆など複数の仕事を同時に抱え、それぞれに締め切りもある。
長瀞出張から帰って以来、睡眠時間を削って仕事をしている状態なのに、一ノ瀬から電話で復顔の依頼を受けたとき、『光栄なことです』などと言って快く承諾してしまった。
確かに事件解決に協力できるのは光栄なことだが、生吹が倒れないか心配だ。それに、一ノ瀬との電話を切った後で、『あの人に頼まれると断れない』と言ったのが、なんだかんだで一番引っかかる。
「そんなに急がなくても間に合うよ」
「でも、生吹先生、論文の締め切り近いでしょ?」
馬田が両手に荷物を抱えたままドアを開けて生吹を先に通し、自分もそのあとに続く。
「大丈夫。さっきから何度も言っているように、心配ない」
生吹はそう言って奥のデスクに直進すると、白衣を翻して椅子に座り、くるりと椅子を回転させた。一つ息を吐き、馬田に向ってスラリと伸びた足を組む。
「今回は、君に復顔を任せるから」
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