雷電国家編
第4話 雷電国家 武蔵ノ国編 準備
夜が明けると共に汽車はどんどんと高度を落としていき人気の少ない広場に停車すると、テリルは座席から立ち上がり、ドアを開けるのかとエリルは思ったが、ドアの方ではなく車掌部屋に入っていき、少しの時間を置いた後、今度は様々な服を持って出てきた。テリルは机の上に服をズラッーっと広げると「お好みの服をお選びください。自分が最も行動しやすい服装を」と言った。
並べられた服装はアイリッシュ国家の階級制度に則った服装ではなく、外国風の服であった。俗に言う和服というものであった。
エリルは服を選ぶ前にテリルにいくつかの質問をした。
「ねえ。私はこの国で何をするの?」
「あなたはこれからこの国で2週間程度過ごしてもらいます。その間にこの国の国家当主。雷電恭司を協力者に引き込んでください」
エリルはめちゃくちゃ驚いた様子で唖然としていた。体が完全にテリルが声をかけても微動だにしなかった。
「あなたはアイリッシュ国家に存在する階級制度を壊したいのでしょう。それなら、外部の協力者が必須です。そしてその協力者の条件は絶大な権力者であること。どんな方法で階級制度を壊すにしても、協力者なしでは成しえませんよ。安心してください。雷電恭司さえ協力者にしてしまえばこの国の民を全員協力者にしたようなものですから。それほどまでに雷電恭司は信頼のあふれる人物です」
(まじかよ。国家当主を仲間に引き入れるぅ? 何考えてんですか! バカですか! アホですか! Shit!!!!)
エリルは心のなかで発狂している中、テリルはエリルの指に指輪をつけた。
「えっ!?」
エリルは声を上げて少し引きながらテリルに問うた。
「テリル。これって結婚してくれって意味ですか?」
テリルはくすっと笑いながら答えた。
「違いますよ。これは、えーと、お守りみたいなものです。危ないときに助けてって心のなかで叫んでみてください。きっと助けてくれますよ」テリルは少しごまかしたように言った。
「えぇー。そんなファンタジー的なことがあり得るんですかあ?」
エリルは少し煽るように言った。その後テリルの大正論を喰らうことになった。
「そもそもこの汽車が超ファンタジーでしょう」
「そういえばそうですね」
エリルはすぐさま真顔に戻りテリルの超絶正論に答えた。彼女は顔に笑みを浮かべながら服を選び始めた。労働階級時代ではできるはずも無かったファッション。年頃の女の子であるのだから彼女も興味がないわけではなかった。しかし、環境がそれを許すことは無かった。そんな様子の彼女をテリルは自分の娘を見るかのように優しく見つめていた。
数分後、エリルは一番動きやすそうな服装を選びその場で着替えた。着替え終えた後、エリルはテリルからコンパスと国の地図を渡された。渡されると同時に注意点も伝えた。
「この先はあなた一人です」
「えっ!?」
彼女は驚きと寂しさを混ぜ合わせたような表情で答えた。エリルはテリルと一緒に行くことが前提と思ってたため、そこまで恐怖と不安はなかったがエリルと一緒ではなく単独行動であることがわかると、だんだん不安が大きくなっていった。それもそのはず。彼女は18年間もの間、外の世界を見たことがなかったのだから。異国の地での行動は彼女にとって半分自殺行為に等しかった。
「私はこの汽車から離れるわけにはいきません。離れられないのです。それと、2週間以内に任務が完了しようがしまいが、必ずこの場所にまた戻ってきてください。それとくれぐれも、この汽車の存在を他言しないでくださいね」
「もちろんですよ。私だってとっとと物事を終わらせたいですから。まあ、国家当主と仲良くなるなんて最高難易度のミッションですけど」
エリルは不安と恐怖を押し殺し、楽勝な発言をして自分の頭を誤魔化そうと開いたが身体までは誤魔化しが効かず、小刻みに体が震えていた。そのことをエリルは見透かしたのか、エリルの肩にやさしく手を置いて言った。
「大丈夫です。何かあればその指輪がきっと助けてくれます。私はいつもでも、あなたのことを見守っていますよ」
エリルは顔を下にして泣き出すかと思ったが、急に笑い出した。
「ぷっ! ははは! ずっと見守るって、まるでストーカーだね!!」
「なっ!!!」
テリルが慌てて弁解しようとする姿をエリルは見て和やかな顔に落ち着くと。「ふふふ、やっぱり私、テリルのそういうところ好きだよ!」と言うと、子供のよう元気で、幼げな様子の声でエリルに言った。
「それじゃあ、行ってきます!」
さっきまで慌てた様子であったエリルは自分の娘を見るかのように、優しく「えぇ、行ってらっしゃいませ」と見送りだした。
エリルは重たいドアをゆっくりと開けて、最初の地、雷電が4つの地域ごとに境界を引いた地域の一つ、武蔵ノ国に降り立った。降り立つと同時に汽車の姿が消えて朝日の顔が眼前に出た。エリルは深く深呼吸した後、雷電に関する情報を集めるために大通りへと足をゆっくり進め始めた。
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