第7話 初めて妹の着替えを観る

 美咲の友達でブラコン仲間の優希ちゃんと別れ、俺達は帰宅する。

その後、揃って美咲の部屋に入るんだが…。


「今日も疲れたね…」


「そうだな」


朝早くから登校して、6限まで授業だぞ。疲れるのは当然だ。


「えーと…、着替えと」

美咲は鞄を置いた後、すぐ制服を脱いで下着姿でタンスを漁る。


「おい! 俺がいること忘れてるだろ!」


罰が始まったのは昨日の夕方だ。その時の美咲は、既に着替えを済ませていた。


風呂の時は脱衣所で着替えを済ませたので、観る機会はなかった。

なので、初めて美咲の着替えを目の前で観ているのだ…。


「昨日言ったよね? 着替えを観られても気にしないって」


そんなの、ただの冗談だと思っていたのに…。

あれこれ考えてる内に、彼女は着替えを済ませる。


「なぁ…。どんな男に着替えを観られても気にしないのか?」

これは絶対知っておくべきだ。


美咲が変態の道に行こうとしたら、何が何でも止めねば!


「そんな事ないよ。お兄ちゃん以外の男の人には観られたくないから…」


「そうなのか」

変態の道に行く気はなさそうなので安心だ。


「…お兄ちゃんも着替えたら? 制服って疲れるでしょ?」


「ああ、そうする」

俺は着替えるため、美咲の部屋を出て自分の部屋に向かう。



 着替え終わって美咲の部屋に戻ると、彼女は電話している。

相手は誰なんだろう…?


「それでね、優希ちゃん…」

電話口でそう言う美咲。


相手は優希ちゃんか。さっき会ったばかりなのに、仲が良いんだな。


彼女には、俺が美咲の部屋で過ごしていることを知らない。

バレないように過ごさなくては。


…なんて考えた時に限って、鼻がすごくムズムズする。

おそらく緊張のせいだろうが、手で押さえる余裕がない…。


「ハックショーーン!!!」

父さんのように、派手なくしゃみをしちゃったぜ。


「……何でもないよ。お兄ちゃんがくしゃみをしただけだから」

美咲が電話口の優希ちゃんに説明している。


あれだけ大きいくしゃみをしたんだ。聴こえてもおかしくないな。


「…わかったよ。今すぐ代わるから」


? 代わるって何だ?


「お兄ちゃん。優希ちゃんが話したいことがあるんだって」


「俺に? 何の用で?」

心当たりがないんだが…。


「さぁ? 『翔さんと話したい』としか言わないから…」


「よくわからんが良いぞ」


「わかったよ。今からスピーカーにするから」

美咲が携帯をいじり始めたので、音を拾いやすくするため彼女に近付く。



 「もしもし、翔さん。優希です」


「俺だ。優希ちゃん、何の用だ?」


「みさちゃんとあたしの電話を盗聴してたんでしょ?」


「は? 何でそうなる?」


「みさちゃんは自分の部屋で電話してるんですよ。それを部屋の前で盗み聞きしてた翔さんがくしゃみをした…。そうでしょ?」


あれだけデカいくしゃみだったんだ。

部屋の外からと解釈されても、違和感はない。


「違う! 俺は美咲の部屋の中でしたんだ」


「部屋の中? 翔さん、みさちゃんに用事でもあったんですか?」


普通、高2の兄が高1の妹の部屋にいるなら、何かしらの用事がないと不自然だ。

だが、そんな用事がすぐ思い付くことはなく…。


「……」

言葉に詰まるのだった。


「別にどんな用事でも良いんですが…、翔さんってシスコンなんですね」


「俺がシスコン? ちげーよ!」

今は罰を受けているから、美咲の部屋にいるんだ。


無事終われば、俺はすぐ自分の部屋に戻るぜ。


「本当ですか~? 用事の内容を言えないのに、みさちゃんの部屋にいるんでしょ?

みさちゃんのことが好きで離れたくないから、そばにいるのでは?」


優希ちゃんは罰のことを知らないから、言いたい放題だ。


誤解を解きたい気はするが、そうすると罰のことを話さないといけない。

それはつまり、俺の汚点を話すことになる。


年下に自分の情けないところを言うのか? それも嫌なんだが…。


「みさちゃんはブラコンですが翔さんもシスコンとなると、仲が良い兄妹ってことですよね。羨ましいです」


「優希ちゃんのお兄さんは違ったのか?」

俺はシスコンじゃないが、質問を遮らないようあえて言わない…。


「はい。小さい頃はよく一緒に遊びましたが、兄さんが中学生になってからは激減ですよ。2人より歳の差があるのが関係するでしょうね…」


確か3歳差の兄妹だったか。俺と美咲に比べたら差があるし、色々あるんだろう。


「…話したいことは話しましたし、あたしはこれで。バイバイ、みさちゃん」


「バイバイ、優希ちゃん」


それからすぐ、電話が切れたのだった…。



 俺はシスコンじゃないが、今の状況では何を言っても無駄だろうな。

早く罰を終わらせなくては…。そう思う俺であった。

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