第16話モフモフ!
おっさんの案内に従って冒険者ギルドにつくと、近くの宿を紹介してくれた。
無駄に歩き回ってすっかり疲れた俺たちは、さっさと荷物を宿の部屋に置きに来た。
三人で俺たちの部屋がどんなものか観察する。ここは男一人の俺用の部屋だ。
清潔なベッドに、小さなテーブル。過度な装飾はないが、生活するのに十分だ。
「いやあ、やっと宿につけたなあ! 本当に苦労したなあ、シュカ!」
「え? うんうん、遠かったねえ!」
シュカが笑顔で答える。その無邪気な様子に俺はたまっていた鬱憤をぶつけた。
「遠かったじゃねえよ! お前が冒険者ギルドまでの道を間違えまくったせいでめちゃくちゃ歩いたじゃねえか!」
「本当に災難だった……僕はちょっと自分の部屋に行ってくる」
俺たちの中で一番体力のないヒビキが、ふらふらと俺の部屋を出ていく。
ちなみに部屋は、俺の一人部屋とシュカ、ヒビキの二人部屋だ。今まではヒビキが変な奴に襲われないようにと二人で同じ部屋で寝ていたが、シュカがいれば俺なんかよりずっと頼りになるだろうと判断した。
正直なところ、ヒビキと同じ部屋で寝ていると俺の理性が限界だったっていうのもある。寝巻だと、見えるのだ。ヒビキのこぼれそうな胸とか、生足とか、いろいろ。
「シュカ」
せっかくの機会だから、俺は彼女と出会った時からずっとやりたかったことを実行することにした。
「なに? ……ってヒャア!」
油断しきっているシュカの犬耳を、俺はむんずと掴んだ。
「ちょっ……キョウ、それは流石に……あっ」
「ほれほれ! よくも俺たちを迷子にしてくれたな!」
ふわふわとした犬の耳が俺の手に心地よい感覚を伝えてくる。ちょうど、近所の大型犬を撫でているような気分だ。
「こっちはどうだ!?」
ぴん、と上に立ったしっぽを掴む。すると、シュカが甲高い声を上げた。
「ひああ!? ちょっ、乱暴にしないで……!」
「おお、想像以上の感触だな」
もふもふしていて、ほんのり温かい。左手に犬耳、右手にしっぽを掴んだ俺は大きな幸福感に包まれていた。
「ほらほらほら! どんな感触なんだ? 言ってみろ、シュカ!」
「ふわあ……キョウ、それはダメだって! じゅ、獣人の耳と尻尾は……ふわあ、敏感で、ちょっ、ちょっと待ってって!」
彼女は、快楽に耐えかねたようにベッドに倒れ込んだ。彼女の晒しだけ巻かれた上半身が、艶めかしくクネクネと動く。
しかし俺は、彼女の尻尾と耳を手放しはしなかった。
あの強くてかっこいいシュカが、頬を赤らめて俺の下でフルフルと震えている。言い表しがたい優越感、言うなれば征服感のようなものが、俺の胸を満たしていく。
――ああ、もっと味わいたい。彼女の健康的な肉体を。明るく振る舞う彼女の、普段見せない顔を。
「あっ……だ、ダメ……ダメだよキョウ、それ、以上はっ」
「……っ!」
手のひらに伝わってくるふわふわとした感触。
自分の理性が溶けていくのが分かる。俺は、ゆっくりと手を伸ばし――
「……お前ら、何してんだ?」
いつの間にか帰ってきたヒビキの声に、俺たちは正気に戻った。
しゅん、とシュカと距離を離す。
「べべべ、別になんでもない! ちょっとじゃれ合ってただけだよ。な、シュカ」
「う、うん……」
顔を真っ赤にしたシュカが相槌を打つ。
「そうか? まあいいや。ボクは寝るから、あんまりうるさくするなよ」
疲労困憊と言った様子のヒビキは、眠そうに目を擦るとあまり深い追及をせずにそのまま去っていった。
「……」
「……」
気まずい沈黙が、俺とシュカの間を流れた。
「な、なあシュカ、もしかして」
「――キョウ君」
シュカの静かな、怒りの籠った声が俺の声を遮った。
やがて彼女は、少し潤んだ目で俺を睨んだ。
「獣人の尻尾と耳は触っちゃダメってお母さんに教わらなかったの!?」
「いや、俺異世界人だし……」
「じゃあ、今覚えて! いい? 獣人の耳と尻尾を触るっていのは、その……大事なところを触るようなものだから、軽々しくやっちゃダメ!」
「でも、シュカ意外と嬉しそうに……」
「そそそ、そんなわけないでしょ! いいキョウ君? 獣人に今みたいなことしたら、一瞬で嫌われるからね! ハーレムなんてできなくなるからね!」
「そ、それは困るな」
ここは、真っ赤な顔をしたシュカの言うことを大人しく聞いておくべきだろう。
「分かったら、もう二度と獣人の耳と尻尾を軽々しく触らないこと!」
「ええー、結構気持ちよかったけどな」
「――絶対、やらないこと!」
「アッ、ハイ」
シュカの顔が怖い。殴りかかられた時以上だ。
獣人の耳と尻尾はいじらない。よく覚えておこう。
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