第16話 何これ、嫌がらせ…?

「ふーん…」


昨日の晩飯に出た砂パンはこの小麦から作った物なんだな

なんとなく理解した、うん…



ワーム倒して、少しずつでも良いから植林しろよ!!?



はい

俺が言えることは以上だ


しっかし…原因が分かっているのに対策しないのか、この国は?


ため息を吐きつつ、本を元の位置に戻した

後は魔物の本だな



「魔物…魔物の本…

あ、あった……え?」



突然、見ていた本棚に影が差した

分かりやすく言うと、背後に誰かが立っていて本棚への光が遮られたんだ


すっ…と頭の左側から手が伸びる


誰かと思い振り返ると、そこにはいつからいたのか…ベネディクトがいた



って、だから顔の距離が近いって!?



振り向いてすぐ目の前に首が見える

少し見上げた位置にある顔は、また不機嫌そうにムスッとしていた


ヤツはこちらの顔を見ずに、左手で体を支えつつ右手で上の段にある本を探している……らしい?

らしいというのは、探し物をしている風に見えないからだ


これ…まさか嫌がらせか?


でも本当に探し物があるのかも知れないと、しゃがんでその場から退けようとして…右手で阻まれた



「邪魔だ」


「え…っ!?」



右手が急に肩に伸びてきて、グッと本棚に押さえこまれる


更に体が近づいてきて胸同士が密着した

ローブや服を着ていなければ心臓の音が聞こえそうだ

そして、気づけば足の間に片足を差し込まれて完全に身動きが取れない状態になっていた


邪魔なら普通は横にズラすとか、俺が退いたあとで取れば良い話なんじゃ…


じゃなくてっ


「ちょっ…

なにすんだっ…!」


慌てて両手でベネディクトの肩を押すが、ピクリとも動かない


そりゃそうだ

相手は筋肉の塊みたいなヤツだ…くそっ



仏頂面を顔に貼り付け、極度に密着した状態のまま時間が過ぎていく


暫くすると、やっとお目当てのものが見つかったのか1冊の本を手に取り体が離れた

だが、それでホッとしたのも束の間


右肩に置かれていた手がスルッ…と腰に回され、ゆっくりと撫でられた


「っ!?」


体がビクッと震える



首と脇腹は苦手だからやめろ!


なんて他の人間がいるかもしれない場所で言えるはずもなく、口をパクパクしながらベネディクトの顔を見上げると何事も無かったかの様にすぐに手が離れた


本を手に、平然と階下に降りていくヤツに文句を言うことも忘れ、俺は理解不能な行動に唖然としたままその背中を見送ってしまったのだった




「なんなんだ、アイツは…」


朝は気づけば人の背中に抱きついて寝てるし、今もわざと密着してきたりして子供みたいな嫌がらせを…


あ、そうか


子供なのか


見た目は大人だが、そういえばまだ16歳なんだった


苦手だという人間に近づいてくるぐらいなのだが

もしかして構って欲しかったり、人肌が恋しいのではなかろうか?


この国は住む者にとって、かなり厳しい方だと薄々感じていた


鑑定眼じゃ相手の過去なんて分かりはしないが、ベネディクトもイーサンやマシュみたいに、両親や心を許せる者がいないのかも知れない



そう考えると、たかだかアレぐらいの嫌がらせでカッカ怒るのもなぁ…



なんかそういう事なんじゃないか?と考えたら可哀想になってきた


まぁ、実際はどうなのかは分からねーんだけど


でも中身は俺の方が年上なんだからな

今度からは、大人の余裕で対処しよう、うん




その後は魔物の本を読み終え、ある程度の情報は得られたので1階に戻った


ギルドの壁には依頼書が沢山貼りだされたボードがランク毎にかけられている

やはりというか、EとFランクは初心者用の依頼だから大した物は無かった


Dランクの方を見ると、デザートデスワームの討伐依頼があるわあるわ…


あの魔物なら今の俺でも楽勝で倒せるのだが、Fランクではまだ信頼度が足り無くて依頼は受けられないみたいだ


そりゃそうか


依頼を受けました、でも力が及ばずに失敗しましたーって事が続いたりしたら、依頼人の冒険者とギルドへの印象が悪区なるし、討伐依頼だと下手したら死人が出るかも知れないしな


うーん

それじゃ何の依頼を受けようか…


じっくり見ていると、大量に貼られた採取系の依頼書が目に付いた


香辛料や食材の採取だ


ホーリーバジルは人目に付きやすいが、トウガラシやアロエなら大丈夫そうだな


魚の納品の依頼書も沢山あった


街中を歩いている時もたまに売っている店を見つけたし、報酬額もFランクの割に悪くない


どちらも川方面に採取場所があるらしく、先程本を読んで気になっていた魔物もそこにいる


うん、これに決まりだ!




都市から更に北へ進むこと10分


意外と近い場所に、思っていたより何倍も大きな川があった


その川には小船が沢山、ロープで陸に繋がれぷかぷかと浮いている


「こんな都市に近い場所でこの規模の川…洪水とか大丈夫なのかコレ?」


堤防は無いし、上流で雨が降ったらとんでもない規模の洪水になると安易に予想できるんだが?



川の近くに行くと、朝だというのにあまり人がいないのが気になった


『ご主人様ぁ

川の中に魔物がいる気配がしますぅ!』

『かなりの数ですー!

気をつけてくださいー!』



なるほど、そういう事か



ピルプルは音波や特殊な能力で魔物や魔獣を探知する事が得意なようで、土の中にいるワームでも何処にいるか的確に教えてくれる


「偉いぞピルプル」


教えてくれたピルプルの頭をよしよしと撫でて褒めると2匹は目をキラキラと輝かせ、嬉しそうに指に抱きついてくる


危険や気配察知のような能力は俺には無いから、ピルプルのような存在は本当に助かるな


「どんな形状で何処にいるのか教えてくれ」


『はいですぅ!

んむむぅっ…なんだか全身がゴツゴツ角張った形ですぅ!』

『お尻の部分に2本の長い尻尾みたいなのがありますー!』



ビンゴだ

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