アイドルの幼馴染を支え続けてきた俺、人気になった瞬間マネージャーを解雇されてしまう。しかし何故か学園の美少女が俺に言い寄ってきたのでこの娘を全力で支えることにしました

@mikazukidango32

第1話

「あなた、もう私のそばに来ないでね。格が落ちるから」


 俺に淡々とそう告げる目の前の女性は俺の幼馴染で最近、人気が急上昇しているアイドルの倖西佳音こうざいかのんだ。


「ごめん。佳音が何を言っているのかよく理解できないんだけど」

「言葉の通りよ。近づかないでってこと」

「なんで……? 俺、何かしたか?」

「私は超人気アイドルなのよ。もう無料のマネージャーは必要ないの。私がみすぼらしくみえるじゃない。つまりあなたはもう用済みってこと」


 唐突にマネージャーを解雇されてしまった。頭が真っ白になる。人気になった瞬間にお払い箱かよ……。しかも無料だとみすぼらしくみえるとかってふざけた理由で……。佳音の言う通り、俺は無料のマネージャーだった。まだ学生の身分なため正式なマネージャではない。当然、給料など出るはずもなく佳音のスケジュール管理や現場への付き添いなどを自主的にしていた。


 佳音とは幼い頃に彼女の人気アイドルになるという夢を二人で叶えようと誓い合った仲だった。しかし、夢が叶った瞬間にこうもあっさりと切り捨てられたのだ。今まで俺、何のために彼女を支えてきたっていうんだ。別に見返りが欲しかったわけじゃない。でも一言くらい労いの言葉でもあれば救われただろう。最後の言葉が用済みって……酷すぎるだろ……。



「あの……? 大丈夫?」


 俺が学園にある自販機の横のベンチで顔を伏せていると黒髪ロングで清楚な雰囲気をまとった美少女が声をかけてきた。見覚えがあると思ったらこの娘は確かこの学園で最も美人と有名な沖宮杏子おきみやきょうこじゃないか。


「大丈夫だよ。ありがとね」


 俺は愛想笑いしかできない。もっと気の利いた言葉を返したかったが幼馴染に唐突に裏切られた俺はとても他人に対して気を使えるような状態ではなかった。


「大友君だよね? いつも倖西さんと一緒にいる」


 大友とは俺の名字だ。何故か彼女は俺の名前を知っている様子だ。倖西さんってのは佳音のことだ。


「そうだけど俺に何か用事?」

「実は私、あなたのことが好きなんです」


 え?突然のことに声が出ない。俺の頭が彼女の言葉をなかなか理解してくれない。何を言っているんだ?俺のことが好き?なぜ?接点もないのに。疑問しかないその言葉に俺はただただ困惑していた。


「私じゃダメ?」

「いやそんなことないけど突然すぎて……」

「お願い。私と付き合って」


 上目遣いで俺にそう懇願する姿はそのビジュアルの良さも相まって眩しく映った。沖宮さんはこれでもかと俺に距離を詰めてくる。彼女の美形な顔が近くなる。至近距離で見るとその美貌がよりはっきりと分かった。ぱっちり二重で睫毛が長い。肌はきめ細かく色素が薄くて美しい。髪が風に揺れてサラサラしてる。そこからほのかに良い香りが漂う。スタイルも良く改めて見ても俺にはもったいない美少女だ。


「やっぱり大友君は倖西さんのことが……」

「え? 佳音はただの幼馴染だよ」

「でもいつも一緒にいるし」

「いや、もう俺は今日から彼女とは疎遠になったんだ。彼女のマネージャーを外されてね」

「それで落ち込んでいたんだ……」

「そうだね……」

「でも落ち込むってことはやっぱり……」

「違うから……!」


 いやいやなぜそうなる。俺と佳音はただの幼馴染でしかない。しかし彼女は俺がどう言おうとそう思い込んでいる様子だ。ここはとりあえず話を戻そう。


「告白の件だけどやっぱり知り合ったばかりだから友達からっていうのはどうかな?」

「(アイドルになれば私も倖西さんみたいに大友君と仲良くなれるのでは……)」


「分かった。友達からにしましょう。それで……もう一つお願いがあるんだけど実は私、アイドルになりたいの」

「え?」

「だからあなたの力が必要なの。お願い。もし良かったら私を倖西さんにしていたみたいに支えてくれない?」


 唐突にそんなことを言い出す彼女。俺は驚かされるしかなかった。でも……俺の力を必要としてくれる人間がいる。それだけで今の俺は救われた。


「分かった。友達を支えるのは当然だよ。沖宮さんが本気でアイドルになりたいのなら俺のできる範囲で協力するよ」

「ありがとう。きっと大友君を魅了できるようなアイドルになって見せるから」

「じゃあ俺は沖宮さんのファン1号かな」

「あなたが支えてくれるのなら何でもできそうな気がする」


 そんな嬉しいことを言われたらその気になってしまう。俺は昔から単純だった。そうだ、佳音を支えていた時もこんな気持ちだったんだ。


 俺が沖宮さんを支えていこう。俺はそう誓った。



「あ、見てよ佳音。佳音の幼馴染が沖宮さんと一緒にいるわよ。あの二人ってあんな仲良かったんだ~」

「……何なのよあれ」

「え?」

「いつも尻尾振って私について来てたのに……。すぐに別の女を見つけてくるなんて」

「でも佳音、大友を自分でマネージャーから外してたじゃない」

「……(私以外の女に興味があるのは許せない)」


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