20 Mako.side



「…マコ」


「圭、くん……」




ずっと、望んでいたことだった。


圭くんの優しい声に、名前を呼ばれること。




真さんを演じると決めてからも、時折夢に見たくらいだった。




だけど、今名前を呼んでくれた圭くんの声は、夢に見ていた声よりもずっと優しくて、ずっと…愛に満ちていて…僕はそれだけで、泣いてしまいそうだった。








「今……今ね…真さんが……」


「うん。俺のところにも、会いに来てくれたよ」


「……そう、なんだ…」




良かったね、大丈夫?、何を言っても間違っている気がして、そんな曖昧な返事しか出来なかった。






「真さんね、俺に教えてくれたの。

俺の、本当の気持ち」


「本当の、気持ち…?」


「うん。俺が本当に必要としてたのは、もう、真さんじゃない。マコと過ごす時間だったんだって」




真さん、僕にも同じことを言ってた。


だけどやっぱり、それは間違ってる。


圭くん必要としているのは…圭くんに必要なのは、僕じゃなくて………






「マコがいなくなって、俺本当に後悔したんだよ。

マコにどれだけ辛い思いをさせたんだろうって…自分が嫌で嫌で仕方なかった」


「圭くんは…何にも悪くないよ。僕が…僕が勝手に……」


「そうさせたのは俺でしょ?


真さんになる必要なんかない、マコのままでいいんだよって、言ってあげなきゃいけなかったね」




確かに、それは僕の…夢みたいなものだ。


僕は僕のままで、圭くんと二人、ずーっと仲良く暮らしていけたら…多分、とても幸せだろう。




でも…我儘だけど、僕は、それが圭くんの夢でもあってほしい。


圭くんと同じ気持ちで、同じ幸せを感じたい。




だから…






「…マコがいなくなってから、俺が求めてたのは…朝、新聞を読んでる真さんじゃなくて、テレビの占いを見てるマコだった。


お酒を沢山飲んで、それでも普通の顔して難しい話をする真さんじゃなくて、すぐに赤くなって酔っ払って眠くなっちゃうマコだった。



真さんが死んで自棄になってた俺を、もう一度笑顔にさせてくれたのは、マコだったんだよ」


「圭くん…」


「真さん、天国は良い所だって言ってた。

親切な人が沢山いて、皆、真さんを支えてくれるって。


多分俺は…それが聞きたかったんだと思う。


天国で、真さんが幸せなのかどうか…それを知るまでは、俺は幸せにはなれない。

俺だけが幸せになんてなれないって、そう思ってた。



多分、真さんはそんな俺を叱りに来てくれたんだろうね。

自分はちゃんと幸せだから、お前も幸せになっていいんだって」




そう言って、圭くんは僕のことを、優しく抱きしめてくれた。






「俺の幸せは、マコを幸せにすることだから。


…一緒に帰ろう。一緒に、幸せになろう」




圭くんの涙と、僕の涙が乾いた地面を濡らすのは、ほとんど同時だった。




そして、そんな僕達を祝福するみたいに、雲の切れ間から朝日が降り注いで、僕達を、優しく照らしてくれた。


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