第3話 対人関係能力のモンスター

「一ついいかな恋する十七歳」


 田中真奈美の言葉に応ずる。一つだけ訂正して。


「今年十七歳になるから、まだ十六歳。細かいことだから別にいいけど」

「そうだった。坂下悠菜は、あなたの席とどれぐらい近いの」

「隣の列の、一つ前だ」

「そう。先輩どう思います」


 話しかけられ、山井先輩は気だるげに顔を向けた。


「僕に訊くな。話していいとは言ったけど、僕に話しかけろとは言ってない」

「すみません」


 と、やはり様子のおかしい山井先輩に、田中真奈美に代わり頭を下げる。田中真奈美は構いもせず続けた。


「じゃあ凄く近いわけだ。話してた時も同じね」

「昼休み終わり頃だ」

「筋肉質な人が好き」

「そう言っていた」

「坂下悠菜とはどれぐらいの距離感。関係性の話ね。会話ぐらいはするの?」

「話しぐらいはする。なんか俺は愉快な存在らしい。文化系部活の守護神とか、陰で言われてるのを彼女は知っていた」

「それ言い出したの私だわ」

「やめろ、事実に即してない。ただちょっといつも顔出して、手伝いみたいなことしてるだけだ。部活動は見てるから楽しい。部に入ったら、時間が拘束される」

「それは今、問題じゃない」


 確かに。どういうことだ。


「なるほど結構親しいのね。なんで急に気になりだしたの?」

「恋は突然やってくる」

「ポエムだなあ。さすが文化部の守護神」

「やめないか。山井先輩もうんざりしてる」


 ため息をついたのはその山井先輩だ。

 話に付き合わせるような形になって申し訳ない。

 なんか大変だろうに。

 先輩は色々大変そうだ。部内の話だろうか。

 配慮も遠慮も足りない後輩で、ほんと申し訳ない。

 改めて相談相手、田中真奈美と座りながら向き合う。その田中真奈美は指を一つ立てた。


「オーケー一つ分かったわ。たぶん恐らく間違いない。ただし一つ条件がある」

「部に入れと。結果次第では考えてもいいが……」

「美術部は正直どうでもいいわ」


 田中真奈美の配慮なき発言に、山井先輩が反応した。ダークオーラを醸し出し、いい加減にしろと態度で表している。ヤバい、凄く怖い。

 しかし田中真奈美は動じない。なんて胆力だ。コミュニケーション能力のお化けは、さすが田中真奈美と言ったところか。

 だから俺も相談する気になった。


 その優れた対人関係能力を持つ、田中真奈美が口を開く。


「あなたとは正反対の理想像ね」

「そうだな。諦めた方が身の為か」

「まさか。まあ好きにしてって話だけど、確度の高い情報なら用意出来るわ」


 ああ、田中真奈美、彼女自身が友人か坂下悠菜に確かめる。さりげに悟られずやり遂げる。

 実を言うと、それも期待していた。

 女子の横の繋がりは、男子のそれより複雑で恋の話に特化している。そして田中真奈美は顔が広い。


「ただし一つだけ条件がある」

「分かった言ってくれ」

「それは言えない」

「なんだよ、無茶ぶりされても出来ない話だったら意味ないだろう?」

「大丈夫、出来る」


 なんで言い切れる。まあそんな無茶は言わないんだろう。とにかくと、仕方なく首肯した。


「つまり取引成立ね。なんでも言うこと、聞きなさいよ」

「結果次第だが、分かったよ」


 田中真奈美は満足げに頷いて、立ち上がると足早に扉へと向かった。それから立ち止まり、


「明日の昼には結果が出るわ」

「分かった。なんか変な頼みですまない」

「そんなことないわ。全く一つも、問題ない」


 言い残して、田中真奈美は颯爽と部室から立ち去った。今から聞き込みに入るのか。大変な頼みをしてしまったかもしれない。

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