49 はじめての合体

49 はじめての合体


 村に祀られていたゴーレムが動き出した理由は他でもない。

 ミックがワールドコントローラーで操っていたのだ。


 イオカルが本性を現わした際、ミックはすぐにゴーレムを利用することを思いつく。

 部屋に引っ込んでワールドコントローラーを探していたのだが、リュックサックの中には無かった。


「おかしいな……? たしかにこの中に入れといたはずなのに……?」


 しかし、いくら中をまさぐっても出てこない。

 外ではイナホとイオカルが言い争っていて、一触即発の状態。


「早く見つけないと……! あっ、そうだった、ゴーレムは声で操作もできるんだった! あっ、しまった! シンラの声でしか動かないだった!」


 ミックは焦るあまり、部屋を右往左往する。


「なら、僕の声でも動くように設定を変えて……! って、そのためにはワールドコントローラーが要るんだ! ああん、もう、どこに行っちゃったのぉぉぉぉーーーーっ!?」


 頭を掻きむしるミックの横を、ロックがトコトコと通すぎていき、部屋の隅にあるキャットタワーにピョンと飛び乗っていた。


「ちょっとロック、こんな大変な時なのにノンキに寛いだりしないで! いっしょに探してよ!」


 ミックは八つ当たり気味にロックを見たのだが、同時にキャットタワーの上にぽつんと置かれているものが目に入った。


「あっ!? あんなところにワールドコントローラーが!? もう、いたずらしちゃダメだよ!」


「にゃーっ!」


「え? 前に使ったときに、僕がここに置いたって? そうだったっけ、ごめんごめん」


「にゃっにゃっ!」


 ようやくワールドコントローラーを手にしたミック。

 肩に飛び乗られたロックにポカポカやられながら、宝箱から顔を出す。


 外はもう、のっぴきならない状態だった。

 イナホが今にも斬首されそうだったのだが、タッチの差で救出に成功。

 そして、今に到る。

 ワールドコントローラーを操作するミックの指に向かって、ロックはパシパシ猫パンチをしていた。


「ちょ、邪魔しないでよロック、間違って村の人たちに攻撃が当たったらどうするの」


「にゃっにゃっ」


 その様子はどう見ても、ただ遊んでいるようにしか見えなかった。

 彼らのそばにいるゴーレムは、彼らを巻き込むことなくババロア団の賊たちを次々と蹴散らしている。


 それは異様な光景であった。

 神と人間の戦いゴッド・オブ・ウォーが繰り広げられていなかで、子供と猫がじゃれあっている。

 イナホはふたりに向かって「あ……あの……」と声をかける。


「おふたりは、何をなさっているのですか……?」


「あっ、イナホお姉ちゃん! ここは危ないから、こっちに避難して」「にゃっにゃっ」


「えっ? こっちって、どちらですか? あ……あららっ?」


 ミックとロックの手によって宝箱の中に引きずり込まれてしまったイナホ。

 気づくと見知らぬ部屋の中にいたので、不安そうに胸に手を当てていた。


「あら……? こちらは……?」


 そしてすぐに気づく。両手で抱え上げられるほどにあった胸の感触が、まったく無いことに。

 不思議に思って視線を落とすと、なぜか胸が平らになっていた。

 いつもなら胸が邪魔をして足元が見にくいのだが、今は視界良好。

 さらに、地面までの距離もだいぶ近い。


「えっ……ええっ? えええっ!? まさかわたくしは、縮んでしまったのですか……!?」


「驚くのはあとにして、一緒に来て!」「にゃっ!」


 口に手を当てて上品に驚くイナホの手を引き、ミックとロックは宝箱から顔を出す。

 外では、賊たちがゴーレムのまわりに集まり足元をガンガン攻撃していた。


 ミックはワールドコントローラーを操作。

 ゴーレムをしゃがみこませつつ左腕を動かし、足元を一掃するようなパンチを放つ。

 轟音とともに砂塵が舞い上がる。掠めただけでカカシゴーレムたちは散り去り、賊たちは風に煽られる紙クズのように吹き飛んでいた。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」


 ミックは続けてゴーレムの右腕を動かす。

 ゾウも掴めそうなほどの巨大な手で、宝箱を後ろかからつまむ。

 そのまま持ち上げて、ゴーレムの頭部に宝箱を置く。

 ゴーレムの頭部には窪みのようなものがあって、それがちょうど宝箱にフィットする。


 そう、シンラは前前世の記憶を参考に、ゴーレムの頭部に宝箱をドッキングできる機能を付けておいたのだ。

 ゴーレムの身長は15メートルもあるので、立ち上がるとミックたちは賊たちを余裕で見下ろせるようになった。

 賊たちは腰を抜かし、ミックたちを見上げていた。


「なっ……なんだ!? いったい、なにがどうなってるんだ!?」


「なんであのピクシーガキが上にいやがるんだ!?」


「なんでもいい! とにかくやっちまえっ!」


「で、でもお頭! このゴーレム、メチャクチャ強いんです!」


「さっきのパンチで骨が折れちまった! もう立てねぇ!」


「だったら這いつくばってでも戦え! 命懸けでもソイツを止めるんだ! いいなっ!」


 イオカルは手下たちにそう命じて、広場から逃げだす。


「ああっ、待ってくださいお頭!」


 手下たちはすっかり戦意を喪失、イオカルの後を追うように這い逃げていく。


「逃がすもんか! いけっ、ゴーレム!」「にゃーっ!」


 ミックとロックのかけ声と同時に、ゴーレムは地を揺らして歩きだす。

 実際はミックがワールドコントローラーで操作しているのだが、傍から見れば大魔神が子供に味方しているようだった。

 ミックとロックに挾まれ、トリオのように宝箱から顔を出していたイナホ。

 もはや驚きを通り越し、すっかり真顔になっていた。


「宝箱の中に入って……シンラ様のゴーレムの上にいる……これって……夢ですよね……」


 イオカルは、村で唯一の石造りの建物に逃げ込んでいた。

 ちいさな砦じみたこの建物こそがイオカルの居城、そして賊たちの本拠地のようで、すでにババロア団の旗があがっている。

 そしてどこかに合図を送っているのだろう、屋上にある見張り台からはのろしが上がっていた。

 イオカルは「もう手遅れだ!」といわんばかりに、自室の窓から顔を出して笑っている。


「ゲココココココ! この村を征服するために、石の砦を作っておいたんだ! ゴーレム対策もバッチリだ! この砦は火山の岩でできてるから、そんなデカイだけのゴーレムの攻撃じゃ、びくともしねぇんだよ!」


 ミックは「ふむ」と品定めをするように砦を見渡していた。


「見たところ、花崗岩かこうがんみたいだね。たしかに硬い岩石だ」


「どうやらお手上げみたいだなぁ! ゲココココココ!」


「たしかに硬いけど……それはあくまで、岩石のなかでって意味だよ」


 ジャブのような軽々としたゴーレムパンチが放たれる。

 それは見張り台にヒットし、粉々に打ち砕いていた。

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