33 先生のために
33 先生のために
暴走したガードゴーレムは、
大きなお腹をゆさゆさと揺らしてガードゴーレムを追った校長は、
「うっ……! うっ……! ううっ……! ガードゴーレムはやっと月賦を払い終えたばかりなのに……! 馬車の月賦はまだまるまる残ってるのに……!」
その横で、シンラは子供たちに囲まれていた。
「すっげぇーっ!? シンラ先生! 初期の雷撃魔術でガードゴーレムをやっつけるなんて!」
「ほんと、夢みたい! どうやったのか教えて!」
「水を掛けてたよね!? なんで水と雷撃魔術でああなっちゃうの!?」
シンラは校長の嗚咽をBGMに、特別授業を始める。
「……まず……僕がしたことのおさらいですが……。……ガードゴーレムの駆動の術式に……干渉して……暴走させました……」
すると生徒たちが「聞いた事ある!」と手を挙げる。
「機怪の術式って、雷撃魔術の影響で書き換わることがあるってパパが言ってた!」
「俺も知ってる! でも、間違って書き換わると危険だから、ガードゴーレムには魔術の防護が施されてるって本に書いてたぜ!」
「……そうですね……。……ガードゴーレムには……雷撃魔術の耐性があります……。……高威力の雷撃魔術でないと……通用しません……」
「でもシンラ先生は、初期の雷撃魔術でそれをやってのけたよね!?」
「……ええ……魔術は、より強力なものを使わないと……威力が上がらないと思われていますが……それは、間違いなんです……。……工夫すれば……初期の魔術でも……絶大な威力を……発揮します……。」
「あっ、先生が言ってた『サプライズ』ってやつ!?」
「……ええ、それも……魔術の威力を上げるテクニックですね……。……今回は魔術の威力を高めるために……ふたつのことをしました……」
シンラはピースサインのように指を二本立てた。
「……まず……相手の弱点を見極める……。……あの型のガードゴーレムは……脚の駆動系の対魔術装甲に……脆弱性があるんです……。……そこを狙いました……」
周囲から「へぇ……!」と感嘆のため息が漏られる。
シンラは指を折り、人さし指を残した。
「……次に……水を掛けました……。……この世界では……あまり知られていませんが……。水は……特に、イオンが多く含まれている、酸性の水は……雷撃魔術の威力を向上させるんです……」
ひとつめのテクニックは子供たちを大いに感心させていたが、このふたつ目のテクニックはみな首を傾げている。
「……えっと……イオンというのは……。……まぁ……不純物が多い……水……とでも思ってください……。……ちなみに……僕がガードゴーレムの脚に掛けたのは……塩水……です……」
「へぇ……! 塩水で雷撃魔法が強力になるなんて、知らなかった……!」
「……これは魔法学ではなく、物理学です……。……覚えておいてください……魔法は……物理と組み合わせると……さらに力を発揮するようになることを……」
生徒たちは最高の師を見るような瞳で、「はい!」と頷き返す。
終業の鐘が鳴ったので、シンラは授業のまとめに入る。
「……相手の不意を突き……弱点を見抜く……。さらに弱点に対して……最大の威力が発揮できる仕掛けをする……。……それができれば……弱い魔術であっても……格上の敵を倒せるんです……」
自分の想いが伝わるように、ひとりひとりの子供たちを顔を見ながら、丁寧に言葉を紡ぐ。
「……でも、もし……失敗して……絶望的な……状況になっても……かならず……突破口はあります……。……最後まで……考えるのを……止めないでください……」
その言葉はたどたどしかったが、子供たちは真剣に耳を傾け、心に刻み込むように聞き入っていた。
「自分を信じ……友達を信じ……利用できるものは……すべて利用して……ください……。……時には……チャンスが来るまで……逃げるのも……ありです……。……一時の敗北も……恥ではありません……」
シンラはここで言葉を区切る。
次に続く言葉こそが、なによりも大事だと前置きするかのように。
「……でも……あきらめちゃ、ダメです……。あきらめは……永遠の敗北ですから……」
いつの間にか校長は復活していて、輪の外から鬼のような形相でシンラを睨んでいた。
「あきらめ、敗北するのは貴様のほうだ、この悪魔めっ! ワシの愛車とゴーレムを、よくもメチャクチャにしてくれたな! 貴様は無能どころか害悪だっ、いますぐこの学園から出ていけっ! あとで国連魔法局に訴えて、貴様が壊したものはぜんぶ弁償させてやるからな!」
騒ぎをききつけ、駆けつけた警備員によってシンラは取り押さえられてしまう。
子供たちはみなシンラを守ろうとしたが、教師たちの手によって引き剥がされていた。
連行されていくシンラに、エクレアはすがる。
いつも寝ぼけ眼だった彼女が、初めて目を見開いた瞬間だった。
「先生……! もっと、先生といっしょにいたい……!」
「……困ったな……僕は……ひとりが好きなので……。……でもまぁ……立派な魔術師になったら……『パートナー』として考えなくもないですが……。……まぁ、それはおいおい……ということで……」
それがエクレアが聞いた、シンラからの最後の言葉であった。
シンラは特別講師の座を降ろされ、学園から追放されてしまう。
生徒たちはエクレアをリーダーとし、特訓を開始した。
自分たちが魔法合戦でいい成績を残せば、シンラの指導力が認められ、また先生として戻ってきてくれると思ったからだ。
そして魔法合戦当日。
シンラの教えを守り、シンラのために団結した子供たちは、他校の高学年の生徒と渡り合う。
下馬評では、最下位間違いなしと言われていたのに、気づけば優勝を果たしていた。
夢にまで見た表彰台。
子供たちはその上で、シンラの素晴らしさをアピールするつもりだったのだが……。
ヒーローインタビューの直前、見ず知らずのオッサンが乱入してきて、こう叫んだのだ。
「このドリヨコの指導により、優勝を獲ったぞぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」
ステージの下から記者や、学校関係者たちが殺到する
彼らはドリヨコを囲み、これでもかとドリヨコをもてはやした。
「いやぁ、さすがは国連魔法局平和維持室のエース、ドリヨコ様だ!」
「創設されたばかりの無名の我が校を優勝に導いてくださり、本当にありがとうございます!」
「あれ? でもドリヨコ様は、シード校の特別講師だったはずでは……?」
「こ……今回は兼任しておったのだ! 他の特別講師どもがふがいないから、レベルを合わせるために、敢えて弱小校というハンデを背負ってやったのだ!」
「待って。自分たちの先生はシンラ……」
ふだんは物言わぬエクレアも、さすがに口を挟む。
記者たちに向かって本当のことを訴えたが、ドリヨコは脂ぎった手で彼女の頭を撫でた。
「どうやらこの子は、優勝の嬉しさで混乱しているようだ! シンラは我が国連魔法局でも外回りしかできない下っ端だというのに!」
「シンラ? ああ、魔法研究でしょっちゅう事故を起こしてるっていう、あの無能ですか!」
「そんな無能のことはほっといて、ドリヨコ様、子供たちにどんな指導をされたのか教えてください!」
「よかろう! 我が輩の冴えわたるカリスマで子供たちを団結させたあと、我が輩からの直伝である苦み走った攻撃魔術で対戦相手をバッタバッタとなぎ倒すよう命じたのだ!」
「さ……さすがは魔法局随一の魔術師といわれるドリヨコ様! 今回のお手柄で、係長への昇任は間違いなしですね!」
「違う。自分たちを導いてくれたのは、シンラ様……!」
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