06 はじめてのレアモンスター
06 はじめてのレアモンスター
「……おっ、おいしぃぃぃぃぃぃーーーーっ!?!?」
突如として沸き起こった嬉しい悲鳴に木々もざわめく。
ミックは木漏れ日の下で、プルアップルにむしゃぶりついていた。
「おいしい! プルアップルってこんなにおいしいものだったんだ! 実がぷるぷるして、ナタデココを柔らかくしたみたいで……!」
「にゃーん?」
「ナタデココって何かって? 僕の前々世であった食べ物だよ、たしかココナッツを……って、トム、お腹が真っ青になっちゃってるよ!?」
「にゃーん?」
「なんだ、ベリーベリーの果汁か。これ、付いたらなかなか取れないんだよね」
「にゃーん」
「あ、そういえばたまにロックが猫型ロボットみたいに青くなって帰ってくることがあったけど、外でベリーベリーを食べてたんだね」
「にゃーん」
「もう、こんなにおいしいものがまわりに生えてるなら、シンラの時に教えてくれればよかったのに」
「うにゃ!」
「教えたけど、研究のほうが大事だって言われたって? ごめんごめん、そういえば家にいるときは研究に夢中だったからね」
ミックは緑の香りを含んだ爽風を感じ、大きく伸びをした。
「うう~ん、森の中がこんなに気持ちいいなんて知らなかったよ! 家の中にいるから余計そう感じるのかも!」
ミックとロックは宝箱の中で、肩から上だけを外に出していた。
その姿は傍から見れば、車のサンルーフから顔を出してはしゃぐ子供とペットのように微笑ましい。
ふたりの行く末を祝福するように、部屋の壁からファンファーレが鳴る。
「あ、レベルアップした。プルアップルを食べたのがいい経験になったのかな? なにか新しいスキルでも……」
壁のステータスウインドウに向かおうとしたミックの肩を、ロックがぽむぽむと叩いた。
「にゃっ! にゃっ! にゃっ!」
いつになく興奮気味の鳴き声。
ロックが目をまんまるにして凝視している先を見てみると、そこは木の上だった。
「なに? なにかあるの? 普通の木みたいだけど……?」
「にゃっ! にゃにゃっ!」
「え? 鳥の巣があるって? 僕には見えないけど……? 一瞬だけキラッと輝いたって? どこが……?」
「にゃっ!」
もう我慢できなくなったのか、宝箱から飛び出していくロック。
木をよじ登り、枝を辿った先を肉球でチョイチョイとやった瞬間、金色に輝く鳥の巣が現われた。
「あっ!? あれは、『ゴールデンファウ』の巣!?」
『ゴールデンファウ』とは、金色の体毛を持つという珍しい野生のニワトリ。
巣も黄金なのでとても目立つかと思いきや、周囲の風景に溶け込む幻術を得意とするので発見は困難とされている。
たとえ発見できたとしても親鶏は下手なモンスターよりも戦闘力が高いので、ベテランの冒険者パーティでもなければ倒すのは難しい。
発見、入手ともに困難なため得られる素材は珍重されており、肉や卵は特に高値で取引されていた。
「すごい! 巣は魔法の素材になるし、卵があるならごちそうになるよ! 受け取るから、巣を落として!」
ミックは嬉々として木の下に駆けつけようとしたが、耳をつんざくような鳴き声にビクリと立ち止まる。
「コケェェェェェェーーーーーッ!!」
親鶏が戻ってきたのだ。しかも父親と母親であろう、2匹のペアで。
巣に狼藉者がいるとわかるや2匹とも猛然とした勢いではばたく。
得意の幻術で姿を消し、くちばしと
「フシャァァァァァーーーーーッ!!」
対するロックは全身を炎のように逆立てて威嚇したが、それは虚空を震わせただけに終わる。
巣を発見できたとはいえ、親鶏の幻術には為す術もないようだった。
見えない相手によってたかって打ちのめされ、ロックは何度ものけぞっていたが、決して引こうとはしない。
「こっちに逃げて、ロックっ!」
「うにゃーっ!」
「え? そんなことしたら僕まで襲われちゃうって!? そんなこと言ってる場合じゃ……!」
「うにゃーっ!」
「ろ……ロック! お願いだから逃げて! このままじゃやられちゃうよ!」
一方的につつかれても蹴られても、ロックは戦うのをやめない。
いじらしいその姿は、ミックの心のなかに眠っていた闘争本能をついに目覚めさせることとなる。
「ロック……! キミが僕を守るために、戦うのをやめないのなら……!」
ミックはいったん頭を引っ込め部屋に戻ると、壁のステータスウインドウに飛びつく。
素早き指さばきで『オーナー』ツリーにある、『飛び道具マスター』のスキルを選んだ。
再び外に顔を出すミック。
パチンコを構えたその表情には、一切の迷いがなかった。
「キミを守るために、僕も戦うっ!」
気合とともに撃ち放たれた鉛玉が、空を切り裂く。
ミックの決意のごとくまっすぐな軌跡を描いた鈍色は、ロックの視線の先にあった梢の葉と、黄金の羽根を散らす。
「コケェッ!?」
ぐうぜん翼を掠めたのだろう、ゴールデンファウの幻術が解け、金色の姿が現われた。
チャンスとばかりにロックは飛びかかっていったが、もう1匹の親鶏の見えない一撃に阻まれ、攻撃は不発に終わる。
「惜しい! あとちょっとだったのに! 今度は直撃させるっ!」
ミックはパチンコでの援護を続行。
『飛び道具マスター』のスキルのおかげで狙いは正確無比になっていたが、しかし見えない相手に当てるのは至難の技であった。
運良く掠めることはできたものの、それは決定打どころか、相手の攻撃を1回ぶん遅らせるだけの効果しかない。
矢面に立つロックが目に見えて傷付いていくのがわかり、ミックの焦りも募っていく。
――だ……ダメだ……! 撃ちまくれば一発くらいは当たるかと思ったのに、掠めるのがやっとだ……!
相手の姿が見えるようになれば、ド真ん中に百発百中は間違いないのに……!
このままじゃ、本当にロックがやられちゃう……!
なにか、別の手を考えないと……!
しかしなにも思いつかず、ミックは苛立ちまぎれに「くそっ!」と地団駄を踏む。
足元でぐしゃりと音がしたので視線を落とすと、そこには潰れて飛び散ったベリーベリーの実があった。
「こ……これだっ!」
ミックは床に散らばっているベリーベリーの実を拾いあげると、パチンコに装填。
最後の希望を託すように撃ち放った。
青い弾丸は、鉛玉の時と同じくゴールデンファウの翼を掠めるだけに終わる。
ゴールデンファウはもう慣れっこのようで、余裕を持って体勢を立て直すとドヤ顔で姿を消そうとした。
しかしその直後、いままではやぶにらみの攻撃ばかりだった敵の黒猫が、正確無比に飛びかかってきたので顔面蒼白になる。
自分の顔色と同じくらいに翼が青く染まっていることに気づいた時には、すでに手遅れ。
「うにゃーっ!!」
ロックは、ベリーベリーの実で浮かび上がったゴールデンファウの首筋に食らいついていた。
ゴールデンファウはロックの攻撃によって全貌を晒し、空中でもつれ合いながら落ちていく。
空中で激しく揉み合い、上になり下になる2匹。
しかし飛行ならまだしも、落下となれば着地のベテランであるネコ科の動物のほうが一枚上手だった。
ロックはゴールデンファウを押さえたまま身体をひねり、必殺投げをする忍者のごとき華麗なる動きで空中三回転。
最後は上になると、ゴールデンファウの身体をクッションにするようにグシャッと地面に叩きつけた。
「コ……ケ……!」
身体を強く打ったゴールデンファウは、そのまま動かなくなる。
残ったもう1匹のゴールデンファウが怒りに任せ、急降下攻撃を仕掛けてきた。
頭に血が上るあまり、身体がすでに青く染まっていることにも気づかずに。
もはや勝負は決したも同然であった。
「やれっ、ロックっ!」「にゃーっ!」
残ったゴールデンファウもあっさりとロックに捕まり、先だった伴侶と同じ運命を辿る。
「や……やっ……た……!」
ミックがそうこぼした瞬間、緊張の糸が切れ、全身が弛緩した。
疲れがどっと押し寄せてきて、たまらず宝箱のフチにもたれかってしまう。
「い……一時は……どうなることかと思ったけど……! なんとか、勝てた……! 」
生まれ変わって初めての戦闘。友のために勇気を振り絞って掴んだ勝利は、まさに大金星といってよかった。
遅れて湧き上がってきた喜びが、疲れを一気に吹き飛ばす。
「や……やった……! 僕らはやったんだ! やったやった! やったーっ! 勝った勝った! 勝ったぞーっ!!」
勝利の雄叫びと、レベルアップのファンファーレが森を揺らす。
ミックは駆けよってきたロックと肉球ハイタッチを決めた。
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