BODY TO BODY

判家悠久

Omotesandou intersection

 目の前には信じられない光景が飛び交う。

 重量1トンはある筈の、車両が、風の強い日の落ち葉の様に、表参道の交差点に、鈍いアルミの擦れる音と共に、得体の知れない力で強引に野積みされて行く。

 いや、もう一つ信じ難いのは、その舞いに舞った車両群から、長身ハンサムの外人が、もはやくず鉄でしかない車両を掻き分けて出てくる。

 これはSF映画でよく見る、サイボーグ。いや、現在2009年の時点で、そんな非合法な人体改造が出来る筈も無い。ならばこの状況なんて。

 やや肥えた中年男性の怒号が聞こえる。


「俺はな、宇宙人なんて、大っ嫌いなんだよ、良いから帰れよ、」

「我々は星団法で守られている、But still a terrible joke. Are there Japanese people like this?」

「はん、言語で皮肉を隠すな、この野郎、」


 この瞬間にも、表参道交差点の四隅には車両が次々のし上がり、いつの間に殺人リングに変わっている。

 まずい、その囲まれた中には、私もいる。私は立ちすくんで、喉は開くも、きゃーの叫び声はあげられない、これが過呼吸なのか。

 ハンサムの外人が、気まずい顔をしてこちらに飛び込んで来る。中年男性がニヤリと、ほくそ笑む


「だろうさ、撒き餌って必要だよな」


 無人の黒塗りのベンツが、縦に回転しながら、私の方に向かって来る。轢かれる、いや押し潰される。

 ハンサムの外人は、何をどう思ったか、その間に入り、右拳を振り抜き、ルーフを横殴りにすると車体を90度にひしゃげた。助かった。

 いや、その衝撃で、何かが回転しながら、私に迫る。

 黒塗りのベンツのバンパーだ。この回転なら、30cm左にずれるだけで躱せる。生命の危険の際は、よく物事がゆっくり見えると言うが、これがしなやかな女性でも適応されるとは、よくも不思議だ。

 脳の伝達より先に、ジャスダンスで鍛えた左太腿の筋肉が反応した、続いて左膝が反られ、これなら30cm分は確保か、助かる術をこなす。

 ただ、世の中に変化球があるって言う事を、ここですっかり忘れていた。これならば新宿のバッティグセンターの変化球BOXに立つべきだったと、今更か。


 バンパーが急カーブを描き、ガン、私の脳天を直撃する。痛い筈なのだが、それより先に視界が真っ暗になった。

 その間、ギャーと、やや肥えた中年男性の断末魔が聞こえたが、私より先に死んだかの直感だ。


「ダイジョウブですか、オネエさん」


 駆けつけたハンサムの外人は、焦るとカタコトになるらしい。


 兎に角動けない。今日はプレゼンで、磨き抜いた美脚を見せ付けたのがまずかった。スカートを履いて、捲れている様な、どんなん感じなのか。いや、まず身体が疼痛の一線を超えたか、強制的に私を眠らせる。

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