第14話 チケットの行方(3)反省会
オルダーソン邸に戻ったエリシャは大層浮かれていた。
帰ってきた早々衣装部屋に飛び込み、ドレスを引っ掻き回す。
「ああ、何着ていこう? この家で一番上等な服は……そうだわ、王宮の晩餐会で着たドレスにしようかしら! お母様の結婚祝いのネックレスを着けて!」
「昼間のお芝居に夜会用ドレスは着られませんよ、お嬢様」
専属メイドのアミが冷静にツッコむ。いきなり貴族の礼節を忘れるほど脳を溶かさないで欲しい。
「ちょっとは落ち着いてください、お嬢様。約束の日までは三日もあるのですから」
「あと三日しかないのよ!」
アミの語尾に被せるようにエリシャが叫ぶ。
「だってだって、テオドール様がお芝居に誘ってくださったのよ! しかもあんなに照れたご様子で。これはいわゆる、デ、デ、デ、デートじゃない!?」
自分の発した単語にキャーキャー大はしゃぎなエリシャ。
……彼女はテオドールの行動を都合良く解釈しまくっていた。
「でも良かった、嫌われてなくて。今度のデートでも失敗しないようにしなくちゃ」
「デートじゃないですよ、ただの観劇です」
幸せすぎて地に足のつかない令嬢の思考をメイドが引きずり下ろす。だが、
「いいのよ、たとえただの人数合わせだって。テオドール様がわたくしに声をかけてくれたのですもの」
思わぬ諦観の言葉が返ってきて、アミは二の句が継げなくなってしまう。
(テオドール・ライクス、こんな健気なお嬢様を
密かに燃えたぎる決意を新たにする。
「ねえ、アミ。デザイナーのカーラ夫人を呼んで頂戴。三日もあればドレスを新調できるでしょう?」
「……三日しかございませんよ、お嬢様」
エリシャのおねだりをつれなくあしらいながら、アミは最後まで令嬢の外出着選びを手伝った。
◆
一方、ライクス邸に戻ったテオドールは呆然としていた。
「おかえりなさいませ、坊ちゃま」
令息から鞄を受け取った専属執事は、彼が握りしめたままの二枚のチケットに「おや?」と眉を顰める。
「そのチケット、エリシャ様にお渡しできなかったのですか?」
こくり、と力なく頷くテオドールに、ケントが慰めの言葉を掛けようと口を開いた、瞬間。
「渡す前にデートが決まった」
「……は?」
理解の追いつかないケントは、かくんと顎を落とした。
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