第6話 オレア祭(1)
護衛騎士となったリオネル様は、学園までの送り迎えや王宮へ行くときの付き添いなど、ずっと私の傍にいてくれるようになった。
今日は王宮に来ていただいているお医者様のジャン先生のところに向かうところ。
私が王宮の廊下を歩く少し後ろでリオネル様は静かに私を見守るようについてくださる。
まあ、国王のことだから婚約者なき後、そのまま女王になる可能性も高い私の重要性が上がって護衛を強化したってところだろうけど、それにしても聖騎士長をつけるのは……。
王太子の婚約者(という嘘の肩書)である私と、聖騎士長となった若くて見目麗しいリオネル様が一緒にいると、それはかなり目立つようで。
廊下を通るたびにこちらを向いて深々とお辞儀をする皆さんの姿が見える。
ええ、知っていますとも。
メイドさんを始め、女性の皆さんは私には目もくれずにリオネル様に熱い視線を送っていることを。
そうこうしているうちにジャン先生のいらっしゃる診察室に着いた。
王族お抱えのお医者様なので、定期的に王宮にいらして皆さんの診察を担当されている。
昔から私を王女と知って診察をしてくださった先生で、私の病についても診てくださる方。
「失礼します」
「クラリス様、お久しぶりですね」
「ええ、先生もお元気そうでなによりですわ」
「医者の私が体調を崩していては困りますからね、特に気をつけていますよ。さ、今日も診ましょうか」
「お願いいたしますわ」
そう言うと診察が始まる。
私の手首に指をあてて脈を確認して私の目の色や、まぶた、そして顔色などを順番に診てくださる。
どうやらいつも通りの体調であり、特に悪化はしていない様子。
私の病は先生曰く、急激に悪化するものではなくじわじわと脈が薄れていき、そのまま亡くなるのだという。
まだ王都付近ではあまり確認をされていない病気で、極稀な病なのだそう。
「はい、終わりましたよ」
「先生、今回も病気の進行はあまり進んでいないでしょうか?」
「う~ん。少し脈が浅くなってきたかもしれない。少し気をつけたほうがいいね」
「……わかりました。ありがとうございます」
診察を終えた私は、そのまま廊下へと出る。
廊下では壁にもたれかかるようにして私を待ってくださっていたリオネル様が、こちらを見て少し微笑んだ。
何か私の顔が暗かったのか、私を心配するように顔を覗き込んでくる。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ……、その、えっと……」
私は診察内容を伝える前に、気になって仕方ないことを言う。
「リオネル様、その、顔が、近いです……」
「ん? それは失礼した。女性にいきなり近づくのは失礼でしたよね。申し訳ございません」
「あ、いえ! その、そういう意味ではなく……」
『あまりの顔の綺麗さで恥ずかしくなるんです』なんて言えず、顔を赤らめて逸らしてしまう。
不思議だとでも言いたいような顔をして首をかしげているリオネル様。
私は顔を合わせづらくなって、急ぎ足でその場を去った──
◇◆◇
それから数日経ったある日、王都の街は大きな賑わいを見せていた。
屋台のような店の準備がせっせと執り行われており、お祭り騒ぎとなっている。
まあ、無理もない。
本当にお祭りが近づいてきており、明日王都の中心部であるこの街では大々的な「オレア祭」と呼ばれる祭りが行われる。
オレアというのはオリーブの木を指す言葉で、平和を象徴するもの。
だから国民がオリーブを普段からよく食べたり、王国の国旗にもオリーブが描かれている。
そんな国で最も有名かつ大規模なお祭りに、国民が騒ぐのも無理はない。
そしてそんな祭ではショーを開催するのが毎年恒例の行事の一つであるけど、私はそこで毎年舞を披露している。
自分でいうのも恥ずかしいが、舞がかなり評判が高い。
緊張するけど、やっているときの無になれる感じが好きでたまらない。
私はドレスとはまた違う、少し腰辺りがタイトめに締め付けられて、そして裾がひらっと広がっている衣装を身に着けて本番のステージへと向かった──
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